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【インタビュー】国境と世代を超えて受け継ぐ想い、自然と生まれたPay it forward

ホーチミン市やハノイ市を訪れ、堅調な経済成長を続けるベトナムの様子を目の当たりにすると、ベトナムにはもはや経済的支援は必要ないのでは…という考えがちらつく。しかし一度都市部を離れれば、地域間の所得格差が生じていることにすぐに気付かされる。経済格差から始まる教育格差、貧困の連鎖はどうしたら断ち切れるのか。子どもたちの教育支援をライフワークにしているひとりの女性に話を訊いた。

樋川 好美
認定NPO法人ベトナム子ども基金理事長。大学卒業後貿易会社に入社。その後大学院に進学した際に入居していたアジア文化会館で、学生の頃からベトナムのストリートチルドレンの支援活動をしていた当時の館長、近藤曻に誘われ活動に参加。医療系のNPOでの経験も活かし、現在は小学校で特別支援学級介助員の仕事をしながら理事長として活躍。公益財団法人社会貢献支援財団第59回社会貢献者表彰受賞。

貴団体について教えてください。

ベトナム戦争中の1959年に南ベトナムからの国費留学生として、京都大学と東京大学で物理学を学んだグエン・ドゥック・ホエさんが、公益財団法人アジア文化会館の創設者「穂積五一氏」と出会い、彼の思想に共鳴したのが始まりです。ホエさんの呼びかけにより、1995年からアジア文化会館を拠点に、貧困層の学習意欲のある子どもたちへの教育支援を行ってきました。2019年には認定NPO法人となり、現在では企業様からもご支援をいただいています。

具体的にはどんな活動をされていますか?


主にホーチミン市にあるドンズー日本語学校の社会活動部門であるドンズー学習奨励会を通じて、29年にわたり教育支援を行ってきました。支援者が特定の里子へ贈る奨学金、里子を指定しない奨学金、学用品や防寒具の寄付、学校施設の改修、ベトナム国内での基金の設立が主な活動です。本を読んで未来の糧にして欲しいという願いから、一昨年から本の寄付をはじめました。昨年からは、ハノイ市にある山岳地域貧困子ども基金を通じて、北部の少数民族が多く住む地域の学校へ本の寄付を行っております。私たちの活動の目的は、経済的に困難なご家庭の生活を助けることではなく、奨学金を支給し、それをどう活かすかを指導し、子どもたちが教育を受けられるよう支援することです。「誰かが自分のことを認め応援してくれている」という証でもある奨学金は、子どもたちの自尊心を育む役割も果たしていると実感しています。

里親と里子の交流の機会はありますか?


私自身も里親としてこれまで8人の里子を支援してきましたが、ベトナムに行った際に里子のお父様が「一言お礼が言いたくて」と庭になっていた果物を持って、自転車で3時間もかけて会いに来てくださったことがありました。里子さんに会いにベトナムに行ってくださる里親さんもたくさんいらっしゃいます。学校を卒業して奨学金支援が終わった後も、SNSを通して連絡を取り続けたり、里子さんの結婚式にご招待されたり、ということもあります。しかし万事が期待通りにいくわけはなく、いつも感動的な対面や大きな成功があるとも限りません。現地を訪問した際に、期待通りの反応が得られずがっかりされる寄付者の方もいらっしゃいます。何のためにご支援をされているのか、支援をしたいというお気持ちを大切にしていただくよう、ご理解とご協力をお願いしております。

どんな成果を感じられていますか?

路上で蒸し春巻きを売ってなんとか生計を立てていらした母子家庭のお子さんが、里親さんとの出会いをきっかけに日本への留学を決意され、ドンズー日本語学校の支援により静岡の日本語学校に留学しました。その後彼女は東京工業大学で学士、東京大学で博士号を取得し、現在は研究員そして母親としてご活躍されています。在学中からアルバイトをしながら私たちの活動も積極的に手伝ってくれていました。

他にもたくさんのベトナムの若者たちが、自身も勉強・仕事・子育てなどで忙しい中、私たちの活動を手伝ってくれています。その若者たちの強い想いに後押しされ、山岳地域貧困子ども基金を通じ、今年9月より少数民族の高校生の奨学金支援を始める計画を進めています。

社会貢献者表彰を受賞したことで変化はありましたか?


とても大きな励みになりました。私たちは皆それぞれ仕事をしながらボランティアで細々と活動しています。少しでも多くの寄付金が届けられるよう、経費を最小限に抑えて地味に活動している私たちをみつけてくださったことに、感謝しています。受賞により、会員管理システムの効率化、北部の少数民族支援の本格化も実現しました。

貧困層の学生には政府が学費・寮費を支給していますが、特に少数民族は独自の文化の中で生活をしていて現金収入がないご家族も多く、学生は衛生用品など身の回りの物を買うお金を持っていません。年間1万円程度の日用品費がないが故に高校に行かずに村に残り、結婚させられたり、売られたりする子もいます。高校に通い、多くの知識を学べば子どもたちに新しい選択肢が広がります。

今後のご予定は?


自分がしたい支援ではなく相手が欲しい支援をすることを第一に、里親里子の奨学金事業、本を届ける教育支援活動を続けていく予定です。私たちは誰でも参加できる小さな市民団体です。だからこそ、私たちのような団体でないとできない支援を誠実に積み重ねていきたい、そして支援する人、される人、関わる人、皆が一列で互いに意見を言い合える団体であり続けたいと思っています。

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