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【社会貢献者表彰|ベトナム】魚ではなく、釣り竿と、人と環境にやさしい釣り方を共に考える機会を|伊能まゆ

ベトナムの少数民族の村や小さな農村のコミュニティに、これほどまでに溶け込んでいる人は他にいるだろうか。「お茶はないが酒はある、という村落で300世帯以上を対象とした調査を行ったのですが、訪問したすべての家で例外なくお酒を勧められました」と笑顔で話す伊能さん。きれいなことだけを語るような組織にはなりたくないと、常に自ら体を張って現地主義を徹底する彼女が目指す支援のあり方とは。

プロフィール
伊能まゆさん
NPO法人Seed to Table〜ひと・しぜん・くらしつながる〜代表。ベトナムで活動する日本のNGOの事業の調査や、日本国際ボランティアセンターベトナム事務所代表を務めた経験を持つ。NPO法人設立後も代表として自ら現場に出向き、物資の支援ではなく人々の能力を向上させることで、持続的な地域の発展と生活環境の改善を目指す活動を継続している。公益財団法人社会貢献支援財団第56回社会貢献者表彰受賞。

――ベトナムでのNPO設立に至るまでの経緯をお聞かせください。

話者:NPO法人Seed to Table代表 伊能まゆさん(以下伊能さん)

1997年にベトナムに来ました。大学の恩師にベトナム研究の大家である古田元夫先生をご紹介いただいたことがきっかけでした。ハノイの大学で学びながら、NGOの農村での調査に参加しました。在学中にはカオバン省の山奥にあるヌン族の村落に一年間滞在。大学院卒業後はNGOの職員としてホアビン省のムオン族の村へ赴任。村の方々から自然とともに暮らす知恵、紛争解決の知恵、人の豊かさなどを学びました。

ホアビン省の若者とみかんの有機栽培

農業、教育、職業訓練、女性の健康、障害のある方々の支援など、幅広い分野での活動に関わりましたが、活動を通じて見えてきた課題の本質的な解決につなげるには、自分でNPOをつくるという選択肢しかないと感じました。問題に関して地域の方々が自ら学び解決する力が育まれるように活動し、その結果NGOや私たちのようなNPOの必要性がなくなることを目標としています。

――具体的にはどんな活動を?

伊能さん:NPO法人Seed to Tableでは、環境に配慮した地域づくりを行っています。地域固有種の種を守ることで、環境を保全しながら、農村の人々の暮らしを守り、コミュニティを強化するという地道な活動を行ってきました。

支援先のご家庭にて

最近まではベンチェ省で、貧困世帯の支援と有機農業の推進を行っていました。日本の合鴨農法をアヒルに置き換えたアヒル農法を農家の方々にご提案しようと考えていたのですが、実際に訪れてみると、本当にご苦労をされている方は土地もない。そこで「アヒル銀行」(※注)や「牛銀行」、植木鉢を使っての菜園づくりから始めました。その後小規模農家の有機農業への移行支援、教育機関と連携しての有機菜園作りなどの活動も展開。みんなで有機農業技術を学びながら、PGSという参加型の保障制度(有機認証)を作る活動も進めました。PGSができ、有機農業の運営体制が整ったことを一つの目安に、ベンチェ省での活動は終了。現在は有機農業の推進と学校菜園の取り組みをドンタップ省で行っています。
(※注)貧困世帯にアヒルのヒナを貸して育ててもらい、食肉として売った代金から最初のヒナ代を引いた分を収入とするシステム

消費者と交流する有機農家

――地域のニーズに合わせた解決案や支援策はどのように見出していますか?

有機農業研修の様子

伊能さん:現場からです。現場を見て、皆さんと一緒に議論しないと本当にその地域にあった対策は出てきません。地域の状況に干渉する者の最低限の責任として、また問題を把握しリスクをお伝えするためにも、現場に入るのは当然のことだと思っています。何年でここまで辿り着くという目標を一緒に設定し、その目標に向けて対等な立場で伴走していきます。ベトナムの方は6割OKだったらOKみたいなところもあるので、「少しだけ農薬使っても大丈夫でしょう」という勘違いをする人も出てきます。生産者の責任、管理の仕方、生産物への価値の付け方、正しいことをすることのメリットなどは、一回の研修で伝わるものではないので、伴走しながら少しずつ理解してもらっています。

――社会貢献者表彰を受賞したことで何か変化はありましたか?

第56回社会貢献者表彰(2021年度)にて 受賞者代表挨拶をする伊能まゆさん

伊能さん:自信をもって活動に取り組めるようになりました。私たちは黒子であり、伴走者です。表に出ることはなく、自ら率先して何かの賞に応募することもありません。社会貢献支援財団の皆様が私どもの活動を見つけ、客観的に評価してくださったことが、私どもの自信に繋がっています。心より感謝しています。

――今後のご予定は?

伊能さん:有機農業を担える人材と加工技術の不足という2つの課題解決に向けて取り組んでいます。まずはドンタップ省の高等専門学校の先生方に、日本から招いた専門家の方々から技術を教えていただき、柱を作ります。2年目以降はその柱を軸に有機農業技術と加工技術の底上げを目指します。加工技術を強化すれば、ベトナムの豊かな農産物を活かした多様な商品の生産が可能になり、新しい産業と雇用も生まれます。また起業しても成功しない若者も多いので、経営のノウハウを学ぶ機会を提供することも計画しています。

有機野菜の栽培支援を行う中学校での交流

ドンタップ省では、日本の農業高校をモデルに、実習で作ったドライマンゴーやアイスを商品化させて販売する準備を進めています。今後3年間で仕上げとして、農業の知見をある程度身につけた人を中心に農業ビジネスの拡大、雇用機会の創出、生産者の利益向上を目指していきます。ベンチェ省では有機ココナッツチップを作って日本の市場に出す準備もしています。ベトナムの生産物の品質を上げるために、日本の皆様にも引き続きご協力いただければ幸いです。

誰かのために頑張っている人を推薦してくださいね!

※社会貢献者表彰への推薦は毎年10月31日が締め切りです。

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