ホイアンの地で環境、人、文化を守ることに身を捧げている一人の女性がいる。「何かをしてあげているようで、実は助けられていることの方が多いんです」と謙虚に語る臼田さんの優しさと強さ、揺るぎない志は、多くの日本人とベトナム人を惹きつける。環境配慮型コミュニティカフェを拠点に彼女は、これまでのベトナム、そしてこれからのベトナムに何を伝え、何を残すのだろうか。
――ベトナムとの出会いは?
ホイアン「U-Cafe」オーナー 臼田 玲子さん(以下臼田さん):
日本ベトナム友好協会川崎支部での活動が始まりです。当時川崎市では年間8万台に及ぶ放置自転車が廃車にされていました。川崎市と友好関係にあるダナン市と周辺地域で遠距離通学をしている恵まれない子供達に、状態の良い自転車を集めて贈るというプロジェクトが2002年に始動し、私は輸出書類の作成やベトナム側との連絡係として2003年より参画しました。放置自転車の数が減少したこともあり2017年を最後に活動は終了しましたが、14年間で1万2千台以上の自転車を贈ることができました。活動を通じて親しくなったベトナムの方たちともっと親しくなりたいと思い、2008年に私はベトナムに参りました。最初はハノイ、その後ダナンに転居し、最終的にホイアンでカフェを作ることを決めました。
――カフェ設立の目的は?
臼田さん:日本の環境保全の技術を現地の方々にご紹介することが一つの目的です。以前日本でお世話になった建築士の方を中心に4名の建築・環境設計の専門家の方々にデザイン、設計、調査などをお願いし、環境配慮型カフェ「U-Cafe」の設立が実現しました。生活排水はすべて、敷地内の浄化槽に送ります。5つの槽で段階的に浄化された水はポンプで組み上げられ、魚や植物が生息する3階の池に放流されます。3階の池でさらに自然浄化された水は、2階、1階の池を介し、最後に川へ流れます。池と市内の河川16か所で生物化学的酸素要求量(BOD)検査などの水質検査を定期的に行っており、池の水が市内の川の水以上にきれいであることも証明されています。簡単な自家浄化槽でここまで浄水が可能だということを周知いただけるよう活動を続けています。
カフェ設立当初のベトナムはまだまだ経済的に困難な状況下にありました。そんななかきちんとした教育が受けられず読み書きができないために就職が困難な女性や、過酷な環境にいる女性たちに職場を提供することももう一つの目的でした。最近は女性たちの意識も高まり、勉強をすればそれなりの報酬を得られるようにもなってきましたが、NPOからの依頼などを通じ、少数民族女性への一部事業を継続しています。
――以前、社会貢献支援財団より社会貢献者表彰を受賞されていますが、受賞したことで変化はありましたか?
臼田さん:賞状と一緒に頂戴した副賞により、環境保全活動のための水質検査と赤字経営だったカフェの立て直しができたことが本当に有り難かったです。受賞の際に会長さんからいただいた温かいお言葉も忘れられません。受賞をきっかけにテレビ局の取材も入り、日本からのお客様も増えました。当時のお客様のなかには今も足を運んでくださる方もいて、受賞の影響は今も続いています。
――この14年間で感じた変化は?
臼田さん:クアンナム省には13の少数民族がいらっしゃいます。少数民族の支援には国も尽力してきたので、若い世代はみなベトナム語が使えますが、少数民族の方に対するいじめや、奥地に住む民族への医療サポートの限界など、まだまだ課題はあります。女性支援に関しては、若い世代を取り巻く環境はかなり改善されたと感じています。若い頃に教育を受けられなかった女性たちを中心に引き続きお手伝いをしていきたいと考えています。環境保全に関しては、大学に環境学部ができたり、そこで勉強した卒業生たちがオーストラリアやアメリカでさらに学んだりといった変化により、今後飛躍的な向上が期待できるので、これからは支援というかたちではなく、地元の人々と一緒に考え、一緒に取り組んでいければと感じています。
――今後の活動予定は?
臼田さん:カフェでは現在メニューを新しくするなどの作業を進めています。日越外交関係樹立50周年の今年は、日本フィルハーモニーからカルテットをお招きしての公演とワークショップを9月にダナン、フエ、ホイアンで予定しています。
また最近、木工技術に優れたカトゥー(英語表記:CoTu)と呼ばれる少数民族の長老であり、元県知事の94歳の男性のインタビュー収録を終えました。文字を持たない民族なので技術などは口頭で伝えていくしかないのですが、後継者もベトナム語を話せる方も少ないので、インタビューや作品保存を通して文化保護のお手伝いをしています。また次世代の環境保全への意識を高めるために、水をテーマにした絵本の制作も企画しています。小さなカフェでやれることには限界もありますし、皆さんに助けられていると感じることも多々あります。
この地域、そしてベトナムの国には日々感謝です。若い方の考えを取り入れればできることもまだたくさんありそうなので、今後はベトナム人女性のマネージャーと息子に徐々にプロジェクトを託していきたいと考えています。
日本ベトナム友好協会川崎支部メンバー。ホイアン「U-Cafe」プロジェクトの産みの親。ベトナムのハノイを訪問した際に目にした児童労働の実態に心を痛め、日本ベトナム友好協会川崎支部で活動を開始。2008年にベトナムに居を移してからは、独自のネットワークを築きながら環境保全、女性や若者の自立支援、文化保護活動などを継続してきた。公益財団法人社会貢献支援財団「平成25年度社会貢献者表彰」受賞。