ベトナム日系企業の現地化と業務効率化|クロスビジネス・ダイアローグ第1回

日本人ビジネスパーソンが抱えるベトナムビジネスの課題をテーマに、異業種のプロフェッショナルが対談を通じて、具体的な課題解決の糸口を探る「X-Biz Dialogue(クロスビズ・ダイアローグ)」
ベトナムでの現地化や生産性の高い事業運営の実現のために、企業が押さえるべきポイント・採るべきアプローチはさまざまあります。今回は「人事労務管理」「離職問題」「ペーパーレス化」に精通した企業3社のご担当者様に集まっていただき、ビジネス座談会を実施しました。

ベトナムにおける日系企業が抱える人事労務の課題

編集部
ベトナムに進出している日系企業の人事労務マネジメントの現状について教えてください。
山本
企業のフェーズなどによって異なりますが、全体的にみて課題が多い状況といえます。極端な例ですと、就業規則がととのっていないケースや、勤怠管理ができていないケースもあります。また、人事評価に関して、本来であれば、会社の目指す方向性と、従業員に期待することを組み合わせたかたちで評価を行う必要がありますが、言葉の壁など、コミュニケーションが課題となって実行できていないケースが多いです。
編集部
日本式のマネジメントとベトナムの働き方には、どのようなギャップがあると感じられますか。
山本
日本では指示がなくとも意図を汲み取って動く文化があると感じますが、ベトナムでは「指示されたことしかしない」と悩む声も聞きます。
ベトナムに限らず、海外に進出した際に重要なのは「どこまで誰の仕事なのか明確に示すこと」です。一回で伝えることは難しいですが、しっかりと時間をかけて取り組むことが重要です。
ここに注力しなかった結果、従業員の働き方に良くない癖がつき、組織に馴染まず、離職につながることもあります。考え方や働き方の理解を浸透させる努力が必要です。
編集部
ベトナムで従業員をマネジメントする上で、最低限理解しておくべきポイントは何でしょうか。


山本
主に3点あると考えています。所得水準上昇のトレンド、ベトナムでの情報共有の文化、ベトナムの方の仕事に対する意識についてです。
ベトナムでは所得水準が上昇傾向にあります。これに伴い、従業員のコンプライアンスのリテラシーも高まって権利に関する声が多くなると考えます。会社はもちろん、マネージャー陣の質の高さが求められます。
ベトナムでは日本よりも情報共有が安易に行われる傾向があることも知っておきましょう。給与や評価といった情報も共有してしまう場合があります。社外秘などの情報漏洩リスクにも注意してマネジメントした方がよいかもしれません。
ベトナムの方は仕事の縦割り意識が強いことも押さえておきましょう。自分の仕事は他人に任せない傾向があり、引き継ぎやジョブローテーションを嫌がるケースも多く、属人化しやすい環境です。
いろいろと挙げましたが、やはり大事なのはコミュニケーションです。会社はルールを作ることができますが、それを実行させるのはマネージャーです。従業員が会社のルールと異なる働き方をしていると離職などにつながりやすくなります。先のポイントを押さえたうえで、従業員に歩み寄り、成長を促し把握することが重要です。
長谷川
給与水準アップの意識が高いベトナムの方が納得する評価制度の作り方とはどういったものでしょうか?
山本
まず、今まで感覚的なところに依存していたものをルールで定めること、そして定期的に評価する制度にすることだと考えます。
石黒
納得のいく評価制度と合わせて、会社への愛着や長く勤めてくれる環境も生み出したい場合はどうでしょうか。
山本
評価と給与、それに加えてキャリアアップの機会を提供することが重要ではないでしょうか。新しい職務を経験させたり、キャリアオプションを提示したり、従業員が自身の経験・知見を高められる職場と思えることが大事になってくると考えます。

ベトナムでの人材定着の現状

編集部
ベトナムにおける人材の定着の現状についてお聞かせください。
長谷川
ベトナムでは短期離職が多く、当社の調査では1年以内に離職する人が20~30%です。日本では1割程度ですので比較しても高い割合といえます。
選考時に見極めたつもりでも定着しないケースは多く、費用対効果に課題を感じる企業が多いです。試用期間が過ぎてしまい、合わない人材を退職させにくいケースや、従業員が突然出社しなくなる例もあります。
編集部
短期離職が多い原因はどのようなことが考えられますか?
長谷川
面接を通して、その人がどんな人物なのか解像度が上がらないことがあると思います。ベトナムでは履歴書をしっかり書く文化がなく内容が薄いこと、日系企業が採用活動を行う場合に面接が第一言語同士ではないことなどが要因だと考えます。
少ない情報で採用活動を行わなくてはいけないので、スキルや経歴といった情報のみで判断され、結果として、組織とマッチしなかったというケースが多いです。例えば、上司の指示を聞ける人材か、他者評価意識がある人材かどうかは、スキルや経歴だけでは測れませんよね。一方で、人柄をみる面接に偏ってしまうと、単なる好き嫌いによってしまう。人材を見極めるための客観的なものさしが必要なんです。
編集部
幹部候補や長期活躍できる人材を見抜く上でのポイントを教えてください。


長谷川
スキルや経歴だけでなく、組織に入ったときにどういった言動をとれる人材なのか、採用活動時点で、できるかぎり解像度を上げることが重要です。
先ほど山本さんからのお話にもありましたが、「自分の業務にこだわりが強い」など人によって傾向が異なります。組織にあった人物かを見極めることがまずは大事です。
採用活動の客観的なものさしとして、弊社は「PandaTest」を提供しています。さまざまな項目ごとの点数から人材の傾向を見極められます。
また、採用後、今の組織で100%発揮できているかを測るツール「Panda Engage」も提供していますので、それらを活用して活躍できていない原因をさぐることも可能です。結果に応じて必要なマネジメントを考えることもできます。結果として、従業員の定着にもつながります。
山本
「PandaTest」や「Panda Engage」はどういった企業からニーズが多いのですか?
長谷川
「PandaTest」は幅広い企業から、「Panda Engage」は蓄積されたデータが必要なのである程度社歴のある企業に導入いただいています
データの蓄積と話しましたが、「Panda Engage」は従業員のデータを、去年、今年といったように比較できるので、どの項目が上がったのか下がったのか、個々の変化もわかるんです。

ベトナムでのペーパーレス化について

編集部
ベトナムにおけるペーパーレス化の現状についてお聞かせください。
石黒
ベトナムには根強い紙文化があります。企業の取り組みについては、業種、業態による大きな変化があるというよりは、企業によって積極性や成果が異なるという認識です。実際にペーパーレス化に取り組んでいる企業からは「文化が異なる中でどうやって実現すれば」というお悩みをいただくことが多いです。
編集部
ペーパーレス化のメリットと、これから取り組む企業へのアドバイスをお願いします。
石黒
そもそもペーパーレス化のメリットとは何か、紙削減・印紙代削減のコスト面に行きがちですが、紙を無くしたことで業務効率化・品質が高まる効果が本来の意図するところです。
これからペーパーレス化に取り組まれる企業であれば、まずは実際に取り組んで成果を出している企業の情報収集から始めるのがよいと思います。
また、業務の属人化が進んでいるケースも多いので、業務の全体像を把握する必要があります。特定の部署だけで進めたが効果が出なかった、他部署と連携できず意味がなかったというケースもあるためです。
長谷川
ベトナムと日本だとペーパーレス化の進み具合にはかなり差があるのでしょうか?
石黒
差があると感じています。日本では電子帳簿保存法など法整備がされていることもひとつの理由ではあると思いますが、根本的な課題に、現地の方とのコミュニケーションが挙がるケースが多いのかなと思います。
編集部
ベトナムでペーパーレス化を進める上でのポイントを教えてください。
石黒
はじめにペーパーレス化の目的を従業員にしっかりと共有することが重要です。既存のやり方に慣れている人に対して、どういった目標のために実施するのか、具体的な未来の話を出して説明します。会社の都合だけでなく、従業員の仕事がどう変わるのか、どう便利になるのか、いかに生産性が高まるのかを話し、従業員が腹落ちできた状態で開始することが重要です。
それから、ペーパーレス化について責任を持つ人を明確に決めておくこと、長期だけではなく短い期間での目標を設けるようにしましょう。大きな目標だけだとハードルが高く、本当に実現できるのか従業員が不安を抱えてしまいます。
山本さんや長谷川さんのお話でも出ましたが、従業員と適切なコミュニケーションを十分にとれるかどうかは、ペーパーレス化に関してもポイントであると考えます。


編集部
ベトナムの人事労務管理、離職問題、ペーパーレス化と、各分野に精通する企業様のご知見をいただける貴重な会でした。幅広いテーマを横断的にディスカッションいただく中で、従業員とのコミュニケーションの重要性が共通するポイントとして挙がりました。ベトナムでの現地化と業務効率化を狙う企業様に役立つ会になりましたら幸いです。今回はすばらしい座談会を本当にありがとうございました。

各社の基本情報

みらいコンサルティングベトナム

ハノイ・ダナン・ホーチミン3拠点において、進出からその後の会計税務・人事労務といった法人運営支援を一気通貫で展開。グループ創業約20年の支援実績と現地を熟知した日本人コンサルタントによる支援が強み

担当者 山本 真佑/Business Director
問い合わせ先 yamamoto-s@miraic.jp
Website https://miraic.com.vn/

FUJIFILM Business Innovation Vietnam

「富士ゼロックス」は「富士フイルムビジネスイノベーション」へ。2021年4月より社名を変更。複合機やプリンターとともに紙による業務プロセスの多いベトナムにおいて業務プロセスのペーパーレス化をご提案。

担当者名 石黒 雄佑/Senior Manager
問い合わせ先 yusuke.ishiguro.re@fujifilm.com
Website https://www.fujifilm.com/fbvn/en

Panda Test

2015年人材採用支援をメインとし、ベトナムにて創業。2023年開始から東南アジア向けオンライン適性検査サービスを展開。リリース2年で100社以上の日系企業が活用し、1万人以上が受験中。

担当者名 長谷川 史織/Senior Sales Consultant
問い合わせ先 hasegawa@viecoi.tokyo
Website https://info.pandatest.asia/ja/

会場

HANKYU MIRAI レンタルオフィス

これからベトナムビジネスにチャレンジされる日系企業に対して、プライベートオフィスのほか、一時レンタルや法人登記(バーチャル)利用のサービス等を展開。1区レタントンにも徒歩1分の好ロケーションで会計税務・人事労務といった法人運営にも精通したコンサルタントも常駐しサービス提供。

住所 2nd floor, No. 7 Ly Tu Trong Street, Ben Nghe Ward, District 1, Ho Chi Minh City, Vietnam
問い合わせ先 096-529-9871
Website https://www.hankyumirai.com/
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