2025年8月7日、ベトナムで就労する外国人労働者の雇用条件等に関する政令第219/2025/ND-CP号(「政令219号」)が公布され、即日施行されました。これは、従前の政令第152/2020/ND-CP号(改正を含む)(「政令152号」)を改正するものです。
本改正は、「高度な専門知識を有する外国人労働者を積極的に受け入れる」こと、「投資・経営環境の改善および経済発展の促進のために行政手続の簡素化に向けた措置を実施する」ことを内容とした、ベトナム共産党書記局および首相の指針に基づき、その一環として見直しが行われたものです。
以下では、政令219号において注目される点を何点かご紹介します。
Contents
労働許可証に関する手続の簡素化
政令219号においては、労働許可証および労働許可証の免除承認書の取得手続きについて、下表のような簡素化が行われています。この改正により、企業にとっては手続負担が軽減され、外国人労働者(特に企業内異動の方法で駐在する外国人)の採用を迅速かつ効率的に進められるようになることが期待されます。
| 政令152号 | 政令219号 | ||
|---|---|---|---|
| 労働許可証 | 労働許可証 免除承認書 | ||
| ステップ1 | ベトナム人向けの求人情報の掲載 | ①現地法人との労働契約、②ベトナム国内の入札・プロジェクト遂行、③外国の外交代表機関等との労働契約の形態で勤務する場合を除き、ステップ1を実施する必要がなくなりました。
なお、求人情報の掲載先は政令上明確に定められていませんので、管轄の労働局に事前相談の上で対応を進めることが望ましいです。 |
廃止 |
| ステップ2 | 外国人雇用承認書の取得 | ステップ2とステップ3が統合され、1回の申請で済むことになりました。
なお、ステップ2を実施する必要があるのは、上記ステップ1を実施する必要がある場合のみです。 |
|
| ステップ3 | 労働許可証/免除承認書の取得 | ステップ3のみ | |
労働許可証が不要な期間の延長および入国回数制限の撤廃
政令152号においては、管理者や専門家等の外国人労働者は、年に3回以内、各回30日未満ベトナムで就労する場合には、労働許可証の取得は不要とされていました。
これに対して、政令219号においては、入国回数の制限が撤廃され、1月1日から12月31日までの期間において、合計90日未満ベトナムで就労する場合に、労働許可証の取得が不要と修正されました。
この改正により、外国人出張者は、ベトナムでの出張期間・出張回数をより柔軟に調整できるようになることが期待されます。
「企業内異動に該当しないその他の異動」という新形態の導入
政令152号においては、「企業内異動」の勤務形態が定められており、ベトナム現地法人との親子会社関係に基づく(ベトナム現地法人との間で労働契約を締結しない形での)人事異動が対象とされていました。同一グループ内の子会社間や、親会社から孫会社への異動(日本親会社とベトナム子会社の間に、シンガポールなどに中間持株会社がある場合)といった場合には、かかる「企業内異動」には該当しません。
政令219号では、上記の「企業内異動」の形態は維持しつつ、「企業内異動に該当しないその他の異動」(foreign employees transferred from an agency, organization, or enterprise abroad to work in Vietnam, except in case of internal transfer)という形態を新たに導入しています。当該形態においては、「企業内異動」に求められている親会社における12か月以上の勤続要件は不要とされており、現地法人との労働契約を締結することなく、ベトナムでの就労が認められます。
この点、ベトナム法人との間の労働契約の締結の有無と、ベトナムにおける強制社会保険の加入義務は相互にリンクしています(企業内異動で労働契約を締結しない場合には強制社会保険の対象にはならない)ので、上記の「企業内異動に該当しないその他の異動」の場合においても、強制社会保険を免れる余地がありそうです。ただ、この点に関しては、政令219号の施行から間もないこともあり、現時点では明確ではありませんので、今後の法令の改正や当局の運用の状況を見つつ、専門家にも相談して対応を進めていただくことが必要と考えます。
労働許可証の申請の前提となるポジションに関する条件の変更・緩和
外国人労働者の労働許可証を申請する際には、どのようなポジション(カテゴリ)で申請するかを決定する必要があります。認められているポジションとしては、「企業管理者」、「業務執行者」、「専門家」、そして「技術者」があります。このうち、「業務執行者」、「専門家」、「技術者」のポジションの要件について、政令219号においては以下のような変更がありましたので、今後の労働許可証の申請に関しては留意が必要です。
| ポジション | 政令152号 | 政令219号 |
|---|---|---|
| 業務執行者(ベトナム語:Giám đốc điều hành) | ①企業の支店、駐在員事務所または事業所の長である者、または ②機関・組織・企業の長による直接の指示、管理の下で、機関・組織・企業の一つ以上の事業の長として当該事業を直接管理する者 |
①変更なし ②機関・組織・企業の1つ以上の事業の長として当該事業を直接管理し、かつ、ベトナムでの職務に関連する3年以上の実務経験を有する者 |
| 専門家 | ①学士号以上の学位、またはこれに準ずる学歴を有し、ベトナムでの職務に関連する5年以上の実務経験を有する者、または ②5年以上の実務経験を有し、かつベトナムでの職務に関連する職業資格証明書を有する者。 |
①財政、科学、技術、イノベーション、国家安全保障分野の大学卒業者レベル人民委員会の決定もしくはベトナム政府の協定に定められる経済社会発展優先分野における学士号以上の学位を有し、かつベトナムでの職務に関連する5年以上の実務経験を有する者 ②上記以外の分野:学士以上の学位、またはこれに準ずる学歴を有し、かつベトナムでの職務に関連する2年以上の実務経験を有する者 |
| 技術者 | ベトナムでの職務に関連する1年以上の実務経験を有する者、または3年以上の実務経験を有する者 | ベトナムでの職務に関連する2年以上の実務経験を有する者 |
コンサルタント経歴
パートナー弁護士
2016年~17年ニューヨーク駐在、2018年英国University College London(LL.M.)卒業。2018年よりベトナム駐在。
ベトナムやアジア各国のクロスボーダーM&A、不動産、労務、紛争などのベトナム関連法務を広く取り扱う。
アソシエイト弁護士(ベトナム)
2018年ハノイ法科大学(LL.B.)卒業。2020年名古屋大学大学院法学研究科(LL.M.)卒業。当事務所ハノイオフィス勤務。
ベトナム法弁護士として、ベトナム法務全般を取り扱う。
基本情報
| メール | ・kazuhiro.fukuda@amt-law.com ・triduc.trinh@amt-law.com |
| 住所 | ・ホーチミンオフィス:23rd Floor, Saigon Centre Tower 2, 67 Le Loi Street, Sai Gon Ward, Ho Chi Minh City, Vietnam(MAP) ・ハノイオフィス:30th Floor East Tower, Lotte Center Hanoi, 54 Lieu Giai Street, Giang Vo Ward, Hanoi City, Vietnam(MAP) |
| 電話番号 | ・ホーチミンオフィス:84-28-7307-1550 ・ハノイオフィス:84-24-3275-4230 |






































