近年、ベトナム政府は共産党の決議に基づき、「デジタル社会・デジタル経済」の実現を国家戦略として推進しています。そして、その中核をなす制度の一つが、公安省によって開発・管轄される電子身分証明システム 「VNeID(Vietnam Electronic Identification)」 です。
VNeIDは、従来の身分証や健康保険証等を統合し、スマートフォンアプリ「VNeID」を通じて本人確認を一元的に行う仕組みであり、近時何かと話題になることも多いので、これに関する法令の概要および、実務上のポイントを解説します。
VNeIDに関する法令の概要
VNeIDに関する政令第69/2024/ND-CP号(「政令69号」)
VNeIDは当初、ベトナム国民を対象として提供されていましたが、2024年7月1日に施行された政令69号により、その対象は外国人および外資系企業にも拡大されました。
もっとも、政令69号の施行直後から直ちに外国人への交付が始まったわけではなく、2025年7月1日より公安が外国人向けVNeIDアカウントの交付を正式に開始し、一部登録が義務化されたことにより、近時急速に普及が進んでいます。
VNeIDのアカウント登録対象と登録必須となるケース
政令69号において、VNeIDアカウントの登録対象は以下のとおり規定されています。
- ベトナム人:国民身分証カードを有する者(子どもを含む)。
- 外国人:ベトナムで永住許可証または一時滞在許可証(TRC)を有する者。
- 機関・組織:ベトナムで設立または登録された機関・組織(外資系企業を含む)。
上記②の外国人の個人に関して、すべての外国人に登録義務が課されているわけではありません。以下のような理由から、外資系企業の外国人の法的代表者についてVNeID登録が必須となっています。
・税務手続:2025年7月以降、外資系企業を含む企業は、従来の電子税務アカウントではなく、VNeIDアカウントを用いて税務申告等を行う必要があります。
・社印の再登録:同日以降、企業は、ベトナム国内における地方行政区画の再編に伴い、新住所とともに社印の再登録を行う必要があります。かかる社印の再登録のためにもVNeIDアカウントを用いて手続を行う必要があります。
上記事情の外資系企業によるVNeIDアカウントの登録は、その前提として、当該企業の法的代表者が自らVNeIDのレベル2アカウントを保有している必要があります。
外国人によるVNeIDレベル2アカウントの登録手続
登録手続は、主に以下の5つのステップで進められます。なお、当該手続の順序については、管轄の公安によって異なる場合がありますので、ご注意ください。
- ステップ1:パスポートおよび永住許可証またはTRCの原本を持参し、管轄の公安を訪問する。
- ステップ2:申請書に必要事項を記入し、整理番号を取得した上で、担当官から呼び出しがあるまで待機する。
- ステップ3:担当官が提出された申請情報をシステムに入力し、生体情報(顔写真、指紋)を採取する。
- ステップ4:申請者が登録情報を最終確認し、担当官がシステムにVNeIDアカウントを登録する。
- ステップ5:申請日から7営業日以内を目途に、申請者の携帯電話番号宛にSMSで登録完了の通知(英文)が送信され、VNeIDアプリのアカウント情報および初期パスワードが付与される。
外資系企業によるVNeIDレベル2アカウントの登録手続
外資系企業によるVNeIDレベル2アカウントは、法的代表者がアカウントを登録した後、VNeIDアプリ上でオンライン申請することにより発行されます。
当職らが認識する限り、かかる手続には特段の支障はなく、アプリ上で関連情報を入力する程度の簡易な操作で完結するようです。
外国人によるVNeIDアカウント登録におけるポイント
まだVNeIDアカウントを登録されていない方は以下についてご留意いただくとよいと思います。
①早朝の訪問
申請の混雑回避のため、午前7時半頃に公安に到着し整理券を入手する。
②申請に必要な情報の事前準備
申請書に必要な情報(氏名、パスポート番号、住所(2025年7月1日以降の新住所)、携帯番号、メールアドレス)を事前に準備しておく。
③番号呼出に注意
入手した整理番号がディスプレイに表示された後、速やかに窓口へ赴く必要がある。遅れると後回しにされる可能性がある。
④言語対応
公安の担当官とのやり取りでは英語が通じない場合があるため、通訳の同行が推奨される。
その他の実務上の留意点
VNeID未登録の際の税務手続について
政令69号においては、VNeIDの申請に際し、申請者となる外国人は永住許可証またはTRCを保有していることが要件とされていますので、何らかの事情によりこれらを保有していない方は申請ができず、その結果、企業アカウントの登録もできない事態が生じています。
これに関連し、財務省・税務総局は2025年6月26日付のオフィシャルレター第2065/CT-NVT号において、「VNeIDアカウント登録については公安省のガイダンスに従うこと。法的代表者が外国人である組織等に対するガイダンスが発行されていない場合、従前どおり税務署発行の電子税務アカウントを通じて税務手続を行うことが可能である」と通知しています。
法的代表者の個人名義の携帯番号の追加購入の必要性
外国人の法的代表者が保有するベトナムの携帯番号は当該企業の名義で購入・登録されていることがあり、個人名義の番号を保有していないケースがあります。
しかし、外国人によるVNeIDアカウント申請において、本人名義の携帯番号を求められる場合があるため、その要否については事前に管轄の公安に確認することが望ましいです。
コンサルタント経歴
パートナー弁護士
2016年~17年ニューヨーク駐在、2018年英国University College London(LL.M.)卒業。2018年よりベトナム駐在。
ベトナムやアジア各国のクロスボーダーM&A、不動産、労務、紛争などのベトナム関連法務を広く取り扱う。
アソシエイト弁護士(ベトナム)
2018年ハノイ法科大学(LL.B.)卒業。2020年名古屋大学大学院法学研究科(LL.M.)卒業。当事務所ハノイオフィス勤務。
ベトナム法弁護士として、ベトナム法務全般を取り扱う。
基本情報
| メール | ・kazuhiro.fukuda@amt-law.com ・triduc.trinh@amt-law.com |
| 住所 | ・ホーチミンオフィス:23rd Floor, Saigon Centre Tower 2, 67 Le Loi Street, Sai Gon Ward, Ho Chi Minh City, Vietnam(MAP) ・ハノイオフィス:30th Floor East Tower, Lotte Center Hanoi, 54 Lieu Giai Street, Giang Vo Ward, Hanoi City, Vietnam(MAP) |
| 電話番号 | ・ホーチミンオフィス:84-28-7307-1550 ・ハノイオフィス:84-24-3275-4230 |







































