JICAベトナム事務所の菅野祐一所長に、インフラ整備、高度人材育成、日系企業進出支援におけるJICAの貢献と今後の展望を伺いました。ベトナムの発展へのJICAの取り組みがどのように寄与しているのか、詳しく探ります。
Q1:ベトナムのインフラ整備の進展について、前回赴任されていた約25年前と比べての印象をお聞かせください。
菅野所長:ベトナム事務所への赴任は今回が2回目で、前回は1999年に赴任しました。当時のベトナムでは、インフラ整備が急務とされていました。
私は、全国運輸交通調査、カントー橋、ハノイのタインチ橋などのインフラ事業を担当し、東京本部に戻ってからもベトナム担当として、ハノイの総合都市開発計画調査やホーチミン市の都市交通計画調査に携わりました。特に昨年末に走り始めたホーチミン・メトロ1号線のプロジェクトは、上述の調査による構想から20年近くの歳月を経てようやく実現しました。長年にわたる取り組みが実を結んだことに、大きな達成感を感じています。
また、カントー(Cần Thơ)へのアクセス整備も重要な課題でした。以前はホーチミン市からカントーへ行くには車で5時間以上かかり、途中でフェリーを利用する必要がありました。しかし、カントー橋(Cầu Cần Thơ)の完成により、現在では2時間程度での移動が可能になっています。このようなインフラ整備が進んだことで、日系企業の物流や事業展開も大幅に改善されました。
注:JICAは技術協力の実施と無償資金協力の実施促進を担当し、OECF(海外経済協力基金)は円借款を扱う役割を担っていました。OECFは2000年に日本輸出入銀行(JEXIM)と統合、国際協力銀行(JBIC)が誕生。
Q2:日越大学(VJU)との研究・連携についてはどのようにお考えですか?
菅野所長:日越大学(VJU)は、日越双方の首脳レベルによる合意のもとで設立され、2016年に修士課程からスタートし、現在は学士課程の卒業生も輩出する段階に至っています。今後は、より高度な人材の育成を進め、日系企業のベトナムでの発展に貢献していくことが期待されています。
特に、日本学の学士コースでは、日本の社会や文化、経済を専門的に学ぶ人材が育成されています。これにより、日系企業が現地で円滑にビジネスを進めるための人材確保が可能になります。また、理系コースを持つVJUと日系企業が連携し共同研究を進めることで、より実践的な技術者や研究者の育成も視野に入れています。
VJUのキャンパスは、ハノイ市内のミーディンキャンパスと、JICAの支援により基礎インフラが整備されたホアラック・ハイテクパーク(Hòa Lạc Hi-Tech Park)と隣接する地域にあるホアラックキャンパスの2つがあります(一部同パーク内)。このハイテクパークには、研究開発型の企業が進出しやすい環境が整備されており、すでに「日産テクノベトナム(Nissan Techno Vietnam)」や「ニデック(Nidec)」といった日系企業や、「FPT」社のような有力ベトナム企業が進出しています。今後もさらなる企業が同パークに進出することが期待されるため、VJUとの産学連携を一層強化していきたいと考えています。
Q3:VJCCの取り組みについて教えてください。
菅野所長:ベトナム日本人材協力センター(VJCC)は、2000年の設立以来、日本式経営の普及、日本語研修、文化交流の三本柱を軸に運営されてきました。特に2009年から開講した「経営塾」の活動が活発化しており、ベトナムの中小企業やスタートアップ経営者を対象に、日本企業の経営ノウハウを学ぶ機会を提供してきた結果、1,000名以上に及ぶ修了生がベトナムのビジネス界において活躍しています。
VJCCでは、日本企業とのマッチングイベントも開催しており、地方自治体が主導する経済ミッションの訪問時に、VJCCの卒業生と日系企業が交流できる場を提供する取り組みも行うとともに、現地に進出している日系企業との連携も図っています。これにより、日系企業がベトナム市場に進出しやすくなり、現地人材とのネットワークが強化されることが期待されています。
Q4:民間連携についてもお聞かせください。
菅野所長:民間連携の文脈においてJICAでは、数十億円から百数十億円規模の海外投融資スキームを提供し、ファイナンス面から開発途上国の企業の発展に貢献していることに加え、中小企業向けの支援策として「中小企業SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」も実施しています。
JICA Bizの一例として、ダラットでの花卉栽培事業があります。JICAの支援を受け、現地で花の栽培や野菜の選別技術の実証実験が行われ、その成果をもとに事業化が進められました。こうした取り組みは、ベトナムへの進出を検討する日本の中小企業にとって、有効なモデルケースとなるでしょう。
JICA Bizの活用件数はベトナムが世界で最も多く、日本企業にとって重要な市場であることが示されています。JICAの支援により、現地政府との交渉が円滑に進むこともメリットの一つです。
Q5:今後の展望についてお聞かせください。
菅野所長:ベトナムは米中貿易摩擦の時期からチャイナプラスワンの拠点として海外からの投資が拡大しており、今後も日本企業にとって重要な投資先であり続けるでしょう。私は、今後、製造拠点としてだけでなく、研究開発拠点としてのベトナムのポテンシャルに期待しています。VJUやVJCCなどで輩出される、日本を理解した上でグローバルに活躍できる高度な人材とともに、日系企業の競争力を強化することが重要と感じています。日系企業の中では、現地人材を幹部として登用する動きもみられる中、こうしたJICAの高度人材育成事業にもご関心お寄せいただけると幸いです。今後も国レベルや地方レベルの開発に引き続き貢献するとともに、産学連携や、民間連携事業を通じて、日越の連携を一層深めていきたいと考えています。
