在ベトナム日系企業の足元の業況は、総じて堅調に推移しています。黒字企業の割合は高水準を維持し、今後の事業拡大意欲も引き続き強い水準にあります。製造拠点としての重要性に加え、消費市場としての存在感も着実に高まりつつあり、ベトナム市場に対する中長期的な成長期待は依然として根強いものがあります。
ベトナム政府は2026~30年にかけて年率二桁成長を目標に掲げ、公共投資やインフラ整備を加速させています。交通網や物流網の拡充、都市開発の進展は、事業環境の基盤を押し上げる要因となっています。また、若年層人口の厚みや所得水準の上昇を背景に、内需拡大への期待も高まっています。地政学的リスクの分散やサプライチェーン再構築を進める企業にとって、ベトナムは引き続き有力な選択肢の一つと言えるでしょう。
一方で、その成長の足元では、人材確保や制度運用への対応など、事業環境を取り巻く複雑さも増しています。数字上の好調さと現場での負荷増大が同時に進行している点が、今回の調査から浮かび上がる特徴です。
2026年の展望と、在ベトナム日系企業が意識すべき論点について、日本貿易振興機構(ジェトロ)ハノイ事務所の萩原遼太朗氏に現地の状況を伺いました。
黒字企業割合は過去最高水準
ジェトロでは毎年、「海外進出日系企業実態調査」と称するレポートを編纂しています。2025年ベトナム版は2026年1月に発表されました。本調査は、在ベトナム日系企業の営業利益見通しや事業拡大方針に加え、外部環境の変化や制度面の評価、調達構造、雇用・賃金動向など、企業経営に影響を与える主要要素を包括的に把握し、企業の事業戦略や施策の立案に活用することを目的に実施しています。また、事業環境改善に向けたベトナム政府への提言などにも活用しています。
この調査によると、在ベトナム日系企業の67.5%が黒字と回答しました。これは2009年以降で最も高い水準であり、ASEAN主要国と比較しても高い数値です。製造業・非製造業ともに前年から改善しており、全体としては安定した業況が続いています。
製造業では、電子部品や一般機械分野を中心に海外需要の回復が追い風となっています。サプライチェーン再編の流れの中で、ベトナム拠点の役割が改めて評価されていることも背景にあります。一方で、輸送機器関連では世界的な需要動向に加え、ベトナム政府によるバイク使用に関する規制環境の変化を踏まえ、慎重な見方も示されています。
非製造業では、不動産、教育、医療、流通分野などで改善傾向が見られます。都市化の進展や中間層の拡大を背景に、内需型ビジネスの広がりが続いています。消費市場としてのポテンシャルは依然として高く、日系企業にとって重要な市場であることに変わりはありません。

拡大意欲は高水準、現地化も進展
今後1〜2年の事業方針については、56.9%が「拡大」と回答しました。ASEAN域内でも高い水準であり、ベトナム市場への期待の強さがうかがえます。拡大理由としては「輸出需要の増加」「現地市場ニーズの拡大」が上位に挙げられました。
現地調達率は38.1%まで上昇し、なかでも地場企業からの調達比率は過去最高水準となっています。国内サプライヤーの技術力や品質管理能力の向上が進み、サプライチェーンの現地化が着実に進展しています。これは円安をはじめとする為替変動リスクの抑制や物流効率化にも寄与し、中長期的な競争力強化につながる動きと評価できます。現地企業との関係深化は、産業基盤の強化という観点からも重要な意味を持っています。

成長の裏側で顕在化する課題
もっとも、好調な業況の裏側では構造的課題も顕在化しています。
第一に、人材確保の難しさです。採用が「困難」と回答した企業は約半数に達し、特に北部の製造業でワーカーの採用難が深刻化しています。中国、韓国、台湾などの外資系企業による大型投資が続く中、労働需給が逼迫しています。賃金水準の上昇も続いており、単なる生産拡大だけでは持続的な競争力を維持できない局面に入りつつあります。
地方での工業団地や物流網の開発が進む中、それに見合う人材を確保できるかどうかが、当面の不安材料となっています。南北高速道路の整備が進んだことで、より広域での立地選択が可能となり、新設工業団地の整備も各地で進展しています。一方で、人材供給は必ずしも企業の実需やインフラ整備と同調しておらず、ワーカーの確保だけでなく、実務を担う中堅人材や技術職の採用・育成にも課題があります。人材獲得競争において劣勢に立てば、事業拡大計画そのものの実現時期が後ろ倒しになる可能性も否定できません。
第二に、制度変更への対応への負荷です。行政改革や新法施行が進む一方、制度変更が断続的に行われる中で、実務レベルでは準備期間が不十分なままの政策導入によって行政や企業など関係者の体制整備が追いつかず、解釈の相違や手続き遅延が生じるケースもあります。関連法令や通達の整合性確認に多くの時間を要し、駐在員が本来業務以外の対応に追われる状況も見られます。
こうした混乱は単なる手続き上の問題にとどまりません。事業開始や拡張のタイミングが遅れるなど、実質的なビジネス停滞を招く場合もあり、実損が発生した事例も指摘されています。不確実性の高まりは事業環境の予見可能性を低下させる要因となり得ます。中長期的には、ベトナム経済の持続的成長にとってもマイナスに作用しかねない点は留意が必要です。
「注視」から「適応」へ
前年に話題となった米国関税の影響は、現時点では限定的との受け止めが多く、企業は調達先見直しや価格調整などで対応しています。ただし、外部環境の変化は今後も続くと見込まれます。
成長機会と構造的課題が併存する環境の下では、「変化を注視する」だけでは十分ではありません。制度環境や人材市場の変化に対し、より戦略的に適応していく姿勢が求められています。
その一つの方向性が、ベトナム企業との協業による役割分担と課題解決です。現地サプライヤーとの連携強化、スタートアップとの協業、高度人材の活用などを通じて、日越双方の強みを組み合わせる取り組みが重要性を増しています。企業単独での対応には限界がある中、連携を前提とした事業モデルへの転換が今後の競争力を左右する要素となるでしょう。
ベトナムの成長局面は続いています。その果実を確実に取り込むためには、環境変化を前提とした柔軟な戦略と、現地との連携深化が一層重要になります。
ジェトロとしても、「日越パートナーシップの深化」を支援の柱の一つに位置付けています。商談会・交流会による出会いの場の創出や、ピッチなどのイベントによる魅力的な企業やビジネスの情報発信、新たな政策・産業動向の情報提供などを通じて協業を促進し、日系企業がベトナムの成長を確実にビジネス機会として取り込めるよう、引き続き後押ししていきます。
【2025年】ベトナムでのビジネスに勝機を見出すなら調達&ビジネスGUIDEBOOK2025|ベトナム国内の優良企業やビジネス情報を掲載中








































萩原 遼太朗 氏