日本とは法律や制度が異なるベトナムで会社を設立するときに必要な手続きについて解説します。
会社を設立の手続きフロー
STEP 1 ライセンス調査
ベトナムでは、外資企業の設立には制限があり、そもそも外資企業には認められていない事業、ベトナム企業との合弁でなければならない事業、外資企業が行うことのできる場所が限定されている事業(例えば外資の製造業の場合、工業団地内に限定されます)、会社設立のライセンスに加えて別のライセンスを取得しなければならない事業など、事業内容によってさまざまな外資規制があります。したがって、ベトナムで行おうとする事業について、どのような外資規制があるのか、どのようなライセンスを取得しなければならないのかを、十分に調査することが非常に重要です。
STEP 2 法人の設立手続き
外資の現地法人を設立するためには、まず「投資登録証明書(IRC)」を取得し、その次に「企業登録証明書(ERC)」を取得することが必要です。
IRCは外資企業を設立する際のみに必要とされるもので、IRC取得手続において当該外資にベトナム進出を認めるかどうかが審査されますが、外資規制の内容によっては審査に数カ月の時間がかかる場合もあります。IRCを取得できれば、次にERCを申請します。ERCは、一般的には1カ月もあれば取得できることが多いです。IRC取得にどの程度時間がかかるかによってERC取得完了までの時間が変わってきますが、一般的にはIRC取得、ERC取得の両方合わせて2カ月〜3カ月程度の時間がかかることが多いでしょう。この2つを取得することにより、法人設立が完了します。
STEP 4 銀行口座の開設
設立した外資法人に資本金を送金するために、ベトナム国内の銀行に「直接投資資本口座(DICA)」を開設します。日本では、法人設立前に資本金を確保する必要がありますが、ベトナムでは、法人設立後に資本金を確保することとされており、この資本金の受け取り口座となるのがDICAです。同時に、通常の業務で利用する口座(経常口座)も開設します。
STEP 5 資本金の送金
DICAが開設されたら、日本からDICA宛に資本金を送金しますが、資本金の送金は、ERCが発行されてから90日以内に行わなければなりません。そのため、上記のIRC、ERCの取得手続と並行して、口座を開設する銀行に必要書類を確認するなどの準備をしておくことが必要です。DICAへの送金が完了すれば、DICAから経常口座へ資金を移動し、さまざまな経費として支出することが可能となります。
会社の種類
ベトナムでは日本と同様、法律でさまざまな種類の会社が規定されていますが、一般的に外資企業が選択する会社の種類としては、「有限責任会社(LLC)」と「株式会社(JSC)」の2種類があります。
有限責任会社を選択するか株式会社を選択するかは自由ですが、株式会社は企業組織の構成やガバナンスがやや複雑であるため、日本を含む外資企業は有限責任会社を選択するケースが多いです。
有限責任会社には、出資者が1人のみの「1人社員有限責任会社」と、出資者が2人以上の「2人以上社員有限責任会社」の2種類があります(「社員」とは「従業員」という意味ではなく、「出資者」あるいは「会社所有者」という意味です)。
有限責任会社は株式を発行できず、資金調達のための社債も発行できません。したがって、将来的にベトナムで株式上場を目指したり、上場しなくても一般から出資を募る可能性があったり、社債を発行することを視野に入れるのであれば株式会社を設立する必要がありますが、そうでなければ、通常は有限責任会社で十分でしょう。
「駐在員事務所」の設立について
いきなり現地法人を設立して事業を展開していくのではなく、比較的小規模、低予算で進出し、まずは市場調査や顧客開拓から始めるということであれば、駐在員事務所を設立するという方法もあります。
駐在員事務所の設立にかかる期間は、通常は1カ月以内であり(ただし駐在員事務所の事業内容によっては、外資規制との関係で想定外の時間を要する場合もあります)、必要となる費用も法人設立に比べると低額の場合が多いと思います。
ただし駐在員事務所は、① 独立した法人格がなく、② 営利目的の活動ができず、あくまでも本社との連絡調整や市場調査、本社の投資機会の促進といった活動に限定されます。銀行口座の開設は可能ですが、支出専用であり、営業活動ができないことから、ベトナム国内からの送金を受けることができません。
現地法人の資本金額は慣例が中心。
専門家に相談を
外資の現地法人の場合、ほとんどの事業で資本金の最低金額(最低資本金)の規定は法律上はありませんが、実際には、一定金額の設定を要求されることが多いです。
一般的にはおよそ1年分のランニングコストを資本金として積まなければならない、あるいは、IRC取得時に設定する総投資額の20%程度を積まなければならないともいわれています。
一方、資本金を最初に大きく設定すると初期の負担が増えるだけでなく、資本金を減少させる場合は複雑な手続きが必要ですので、現地法人設立後に必要に応じて増資するというのが一般的です。
増資の手続きは、必要書類を整えて申請を行い、DICAに送金すれば可能です。いずれにせよ、資本金に関しては地域や業種によっても大きく違うので、個別事案として専門家に相談することが望ましいでしょう。
複数拠点を設立する、拠点を移転する
ベトナムでの事業が拡大することにより、本社以外の場所に拠点を開設する必要が生じるかもしれません。この場合、現地法人の支店や現地法人の駐在員事務所を設立することが可能です。支店は本社とは会計を分けて管理することが可能ですので、本社と支店でキャッシュフローを分けることもできます。
本社とは別の場所で本格的に事業を展開するほどではないものの、営業上の理由などから本社とは別の場所に拠点が必要ということであれば、支店ではなく駐在員事務所を設立するという方法もあります(ただし上記のとおり、駐在員事務所の活動範囲は限定されていることに注意が必要です)。
さまざまな理由により、本社や支店などの場所を変更(住所移転)させる必要が生じることもありますが、省や市をまたぐ場合、税務申告を完了させていなければならず、その際に税務調査が入って時間がかかることが少なくないため、注意が必要です。移転先について、自社の事業に利用できる物件なのかについての確認も必要です。
料金的なメリットで住居用の物件をオフィスとして使おうとしたり、事情に疎いローカルの不動産業者や関係者の紹介で移転先の物件を決めたりすると、その物件は自社の事業には使用できないというケースもあるため、注意が必要です。
事業撤退の手続き
「失われた30年」などといわれる長期間の景気低迷や急激な円安の影響から、ここ数年、ベトナムからの撤退を検討する日系企業が増えているのも事実です。
以前は事業の「休眠」という方法もあったのですが、現在では1年しかできないことから、1年以内に事業の撤退か再開を決めなくてはいけません。
現地法人を設立している場合、撤退の際の手続きとしては、日本と同様に、会社解散の決議・決定を行い、従業員の解雇、不要な資産の売却、債務の支払い、工場やオフィスなどの賃貸借契約の解除、明渡しなどが必要となります。
最終的に現地法人の清算手続を完了させるためには、税金の申告・納税が必要となりますが、この際に必ず税務調査が行われます。税務調査が完了し、申告・納税が終了しないと清算手続きが完了せず、現地法人名義の銀行口座の閉鎖もできません。ただ、この税務調査に時間がかかるケースが多く、現地法人が設立されてからの活動期間によりますが、通常のケースでも1年以上、場合によっては2年以上かかることも珍しくありません。
取材協力・記事監修
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日本弁護士/ベトナム外国弁護士 矢根俊治
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