Jリーグがアジア(特に東南アジア)での市場開拓、事業展開を視野に入れ、その必要性、将来性を唱え始めたことに、いち早く呼応したのがセレッソ大阪だった。
2018年にBGからセレッソに期限付き移籍したMFチャウワットは同年、セレッソ大阪U-23のメンバーとしてJ3で実績を積んだ。BG復帰後、2021年のリーグ初優勝に貢献し、タイ代表に選出されるまでになり、今年、再びセレッソに加わった。
BGとの提携は当然、クラブの収益アップに寄与している。2015年、セレッソはBGの母体であるタイのシンハビールとトップパートナー契約(ユニフォームに社名ロゴを掲出)。セレッソのホームゲームでシンハビールが販売されている。また同時にヤンマーがBGとスポンサー契約を結んだ。
セレッソはクラブのアジア戦略が、東南アジアに目を向けるパートナー企業の事業展開の助力になると考えている。その成功例がある。
プラチナパートナーであり、2018年からユニフォームのパンツに社名ロゴを掲出している図書製本、事務・学用品販売のナカバヤシは、セレッソのタイでの育成事業を支援したのをきっかけに、BGの母体であるガラスメーカー、バンコクグラスとつながった。
2020年、その傘下のBGフロートガラスと業務提携。同社が生産する調光ガラス(透過・不透過の切り替え可能)を自社ブランド「N-Smart)」として日本で販売する契約に至った。フレキシブルな空間を求めるオフィス、医療機関、ホテルなどで採用されている。
ナカバヤシは2021年からセレッソの本拠地、ヨドコウ桜スタジアムのゲートのネーミングライツを獲得。クラブとの関係を深め、支援を膨らませている。
また、セレッソは2021年、ベトナム代表GKでSNSのフォロワーの多いダン・バン・ラムをタイのムアントン・ユナイテッドから獲得した。それを機にマンダムとEmpower Asia パートナー契約を結んだ。同社はアジアに勇気と元気を届けるプロジェクトを支援するアンバサダーにダン・バン・ラムを起用。ドキュメンタリー動画の配信、試合へのベトナム人の招待事業を進めている。
ヤンマーはタイ以外でもアジアのサッカーに関わっている。2015年にベトナム代表のオフィシャルパートナーとなり、看板掲出などに合わせて練習場の芝の改善に尽力。2016年から東南アジア選手権「スズキカップ」の支援もしている。ちなみに、コロナで延期されていた2020年大会は今年1月、タイが優勝し、チャナティップが最優秀選手に輝いた。
ヤンマーのアジアサッカーとの関わりについて、セレッソの宮島武志取締役副社長(ヤンマーから出向)は「セレッソを支援していることがヤンマーの売上増に直結するわけではないが、東南アジアでのサッカー人気の高さを考えると、セレッソは東南アジアでのヤンマーの認知度向上、ブランド力向上に確実に寄与できる」と話す。
タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポールなどにはヤンマーの事業拠点がある。宮島副社長は「そこで働く者の誇り、モチベーションに影響するし、採用やエンゲージメントの面でプラスにつながるのではないか」とみている。
さらに言えば、YHAをはじめとした東南アジアでの選手育成・強化事業は社会貢献、豊かな社会づくりへの寄与と捉えることができる。それは、2013年にブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE テクノロジーで、新しい豊かさへ。」を掲げ、資源循環型の持続可能な社会を目指すヤンマーの企業理念に合致する。
猪原事業部長は「ヤンマーが株主でもありセレッソのトップパートナーだからこそ、セレッソは東南アジアで継続的にこれだけのことができている」と語る。Jリーグの旗振りで始まった活動だが、10年を経るうちにクラブとトップパートナーの企業がそれぞれのビジョンと道筋を明確に抱き、補完し合いながら歩を進めている。
(取材・文 吉田誠一)