日系企業が注意する点
ベトナム現地法人のコンプライアンスを考える際に、法令遵守のみを想定してはいけません。コンプライアンスは会社の価値観、理念を表現する場でもあり、そのような側面を持たなければ単純にルールに厳しい日系企業と映ってしまいます。
社内規程では従業員に始業時間の厳守と終業時間後では残業時間の正確な記入を求めていたとして、とある従業員が道端で困っている人を助けたために始業時間に遅れ、その分を補填しようと残業時間を過少申告しました。コンプライアンス上はどのように考えるべきでしょうか?
コンプライアンスというと法令遵守ということで、特に海外となるベトナムではより注意している企業が多いイメージがあります。
そうですね。海外子会社のコンプライアンスは本社サイドにとっては関心を払わざるを得ない事項になります。ただ、子会社側代表者からみると、本社の締め付けとしてやや必要悪や不自由さを生み出すような制度に映るかもしれません。
同じグループ企業内でも捉え方が違うのですね。
そうですね、親会社の方がコンプライアンス分野では積極性が高く、現地法人側は藪蛇をつつかないよう、どちらかというと消極的になりがちです。
現地法人側としてコンプライアンスを進めていくことは難しいということでしょうか。
単純に法令遵守とだけ捉えてしまうとそのようになります。要するに、ルールを絶対守れというマインドになってしまうと息苦しいということで、現地代表者側の人的要素ではなく構造的な意味で消極的にならざるを得ないでしょう。
しかし、一般の法令も同様なのですが、このようなルールというのは特定の価値観を守るためにとりあえず文言化された道具なのです。何のためにあるのか分からないまま運用するとこのような消極的な構造が生じるように思います。
例えば、従業員が遅刻をしたとして、その理由が近所の困っているご老人の頼まれごとに対応していた場合、交通渋滞が通常よりも多く発生していた場合、日本本社の社長から個人的な依頼を受けており、これに対応していた場合、人や状況によってアウトとセーフが異なります。
重要なのは、ここからでして、なぜアウトなのかセーフなのか、その理由に関する部分にその企業やルールの価値観が強く現れます。コンプライアンスという場面で本来的に重要視すべきなのは、ルール自体ではなくこの価値観です。また、言い換えれば、いくら規程や周知を図ったところで、このような価値観が伝わっていなければコンプライアンスとしては表面上の機能に留まりやすく、いざというときに真価を発揮する可能性は下がってしまいます。
日本における一般法令も同様です。各種法令には文言化されたルールが規定されていますが、その背景には特定の価値観が設定されています。この価値観に反しないのであれば、文言上はアウトでも解釈にてセーフにしてしまうことも少なくありません。一般的に、このような一見アウト/曖昧だけど・・という判断が判例と称されています。
企業の価値観と考えると確かに法令一辺倒というわけではなさそうですね。
そうです。社内規程は企業として守っていくべき価値観や倫理観の検討を十分経た後の「見える化」する過程で生じるもので、規程自体が優先されるべきとは必ずしも言い難いのです。
そうするとベトナム現地法人としてはどのようにコンプライアンスを進めるべきなのでしょうか?
日本と異なり、ベトナムに限ったことではないですが、根底の文化や一般的な共通の価値観が異なります。日本では道交法におけるスピード違反等への規範意識が弱いのと同様に、ベトナムでは例えば贈賄に対する規範意識が日本のそれと異なります。このようなギャップが生じていることを前提に、各企業にウェブサイトなどで謳っている企業理念の深堀、ベトナムへの落とし込みなどを検討した上で、ルール内容よりも先に各企業の価値観を周知すべきかと思われます。先の例になぞらえると、贈賄がなぜ悪いのか分かりやすく各人が理解する必要があったりするということです。法的な背景もありますが、歴史的なもの文化的なもの、様々な要素からの検討が必要です。
いわゆる社内規程と言われる法的なルール等については、そのような作業の後、ないし並行して行って、やはり企業理念との関連性を現地従業員に理解してもらう必要があります。
法律事務所の方でそのようなサポートを行っているのでしょうか。
弊所の方では、一般的な企業内研修も行っておりますが、このように少し踏み込んだ現地コンプライアンス強化に向けた企業ごとの理念や価値観の検討の場から同席させていただき、現地駐在員様に代わって社内での理念共有のワークショップの実施、反応を見てからの社内規程の改定など、一連をパッケージ化したサービスなども行っております。
なるほど、ただ法令を守ればいいというわけではないという点が目から鱗でした。
ありがとうございます。コロナ禍も収束が見えてきており、現地法人の管理にリソースを割き始めている企業も増えてきていると聞いております。各種法令把握に併せて、このような自社ならではのコンプライアンスを模索するきっかけになっていただければ幸いです。
ベトナム明倫国際法律事務所
今回の執筆者
ホーチミン事務所代表弁護士
盛 一也(もり かずや)
k-mori@meilin-law.jp
・京都大学総合人間学部 卒業、中央大学法科大学院 卒業、2015年12月弁護士登録、2016年1月税理士法人山田&パートナーズ入所、2018年11月弁護士法人Y&P法律事務所転籍、2020年1月明倫国際法律事務所入所。座右の銘は、兵は神速を尊ぶであり、常に迅速な役務提供を実践。専門分野は、国際関係取引/スタートアップ法務/各種契約書・規定整備/人事労務対応/商標等知的財産戦略。使用言語は、日本語、英語。趣味は筋トレとサウナ。
ベトナム明倫国際法律事務所とは
ベトナム明倫国際法律事務所は、日本語が堪能なベトナム人弁護士・スタッフ、及び日本人弁護士・スタッフのチーム対応により、法務からビジネス慣習、ベトナム子会社の組織作りやコンプライアンス体制構築など、幅広い業務に、迅速かつ専門的に対応しております。
ベトナムにおける日本人及びベトナム人コミュニティの広範なネットワークと、ビジネス法務のエキスパートの豊富な経験・知識・ノウハウを生かし、ベトナムビジネスについてのビジネススキームや経営戦略作りに至るまで、頼れるビジネスパートナーとして、皆様のベトナムでのご成功をお手伝いします。ぜひ一度、当事務所のビジネスブリーフィングサービスやご相談サービスを、ご利用下さい。
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