【第19回】ベトナムホーチミン駐在弁護士が解説~ベトナム在住の日本人が死亡した場合における日本の家庭裁判所での相続放棄手続について~

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ベトナム在住日本人が亡くなり債務超過が想定される際に、その債務の負担を避けるためには、相続人が日本・ベトナムにおいて行うべき手続を整理・確認することが重要となります。

本記事では、ベトナム在住日本人が亡くなった際に日本在住の日本人である相続人が行うべき相続に関する手続について、法的な観点から解説をします。

編集部
ベトナム在住日本人が亡くなった際には、日本法とベトナム法のいずれの法律が適用されますか?
弁護士
日本法上(法の適用に関する通則法36条及び38条)、相続は被相続人の本国法によるものとされており、本国法とは、国籍を有する国の法律を有するものと解されています。従って、亡くなった人が日本人である場合には日本法が適用されることになります。
編集部
ベトナム法では相続についてどのように規定をしていますか?
弁護士
ベトナム民法680条1項及び2項によれば「相続は、相続される遺産を残した者が死亡の直前に国籍を有していた国の法令に従って確定される」、また、「不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される。」とされています。

このことから、ベトナム在住日本人が亡くなった場合には、ベトナム所在の不動産を除く財産についての相続は、ベトナム法ではなく日本法が適用されることになります。

編集部
そうすると、相続放棄の手続は日本で行えば問題ないということですか?
弁護士
家事事件手続法3条の11第1項によると「相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき」でなければ、日本の家庭裁判所が管轄を有しないことになります。従って、ベトナム国内に住所を有する日本人が死亡した場合には、日本の家庭裁判所の管轄が認められないことになります。
編集部
それでは日本の家庭裁判所において相続放棄の手続ができないということですか?
弁護士
その可能性があります。
編集部
それではベトナムの裁判所で相続放棄の手続ができるのですか?
弁護士
ベトナム民法第615条1項によれば、「他の合意がある場合を除き、相続人は、死亡した者の残した財産の範囲内で財産的義務を履行する責任を負う」とされています。このことから、日本と異なりベトナムでは相続人は債務を相続するという仕組みになっておらず、そのため、相続放棄という制度自体が存在しません。
編集部
そうすると、債務超過の被相続人から債務を受け継ぐ可能性がある相続人が日本において相続放棄をできずに債権者から債務を請求される可能性があるということですか?
弁護士
はい、その可能性があります。
編集部
それはあまりにもひどいですが、何か解決法はないのですか?
弁護士
日本の家庭裁判所に相続放棄申述を申し立てる際に法的意見書を提出するなどして、日本の家庭裁判所で手続を進められるようにするという方法があり得ます。
編集部
具体的にはどのような意見書を提出するのですか?
弁護士
事案に応じて主張等をする内容は異なりますが、家事事件手続法3条の11第1項において住所不明である場合に日本の家庭糧裁判所での手続が認められるため、その点を記載し、また日本の家庭糧裁判所で相続放棄申述の手続ができないことの不都合性が大きいことなどを記載することが考えられます。
編集部
実際に認められることがあるのですか?
弁護士
同様の事例で意見書を提出することで日本の家庭裁判所での相続放棄の申述が認められたことがあります。
編集部
そうすると、事案に応じてしっかりと検討する必要がありそうですね。
弁護士
その通りです。
編集部
ありがとうございました。

ベトナム明倫国際法律事務所


弁護士・調停人 
ブイ・ホン・ズオン(DUONG)
duongbui@meilin-law.jp 
・日経企業への法務サポート経験訳7年間。日本語堪能

ベトナム常駐弁護士
原 智輝(はら ともき)
t-hara@meilin-law.jp 
・インハウスとして企業内での勤務経験有。日本語・英語堪能
今回の執筆者

ホーチミン事務所代表弁護士
盛 一也(もり かずや)
k-mori@meilin-law.jp 
・京都大学総合人間学部 卒業、中央大学法科大学院 卒業、2015年12月弁護士登録、2016年1月税理士法人山田&パートナーズ入所、2018年11月弁護士法人Y&P法律事務所転籍、2020年1月明倫国際法律事務所入所。座右の銘は、兵は神速を尊ぶであり、常に迅速な役務提供を実践。専門分野は、国際関係取引/スタートアップ法務/各種契約書・規定整備/人事労務対応/商標等知的財産戦略。使用言語は、日本語、英語。趣味は筋トレとサウナ。
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ベトナム明倫国際法律事務所は、日本語が堪能なベトナム人弁護士・スタッフ及び日本人弁護士・スタッフのチーム対応により、法務からビジネス慣習、ベトナム子会社の組織作りやコンプライアンス体制構築など、幅広い業務に、迅速かつ専門的に対応しております。ベトナムにおける日本人及びベトナム人コミュニティの広範なネットワークと、ビジネス法務のエキスパートによる豊富な経験・知識・ノウハウを生かし、ベトナムビジネスでのビジネススキームや経営戦略策定に至るまで、頼れるビジネスパートナーとして、皆様のベトナムでのご成功をお手伝いいたします。ぜひ一度、当事務所サービスを、ご利用下さい。
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