日系企業が注意する点
ベトナム在住日本人が亡くなり債務超過が想定される際に、その債務の負担を避けるためには、相続人が日本・ベトナムにおいて行うべき手続を整理・確認することが重要となります。
本記事では、ベトナム在住日本人が亡くなった際に日本在住の日本人である相続人が行うべき相続に関する手続について、法的な観点から解説をします。
ベトナム在住日本人が亡くなった際には、日本法とベトナム法のいずれの法律が適用されますか?
日本法上(法の適用に関する通則法36条及び38条)、相続は被相続人の本国法によるものとされており、本国法とは、国籍を有する国の法律を有するものと解されています。従って、亡くなった人が日本人である場合には日本法が適用されることになります。
ベトナム法では相続についてどのように規定をしていますか?
ベトナム民法680条1項及び2項によれば「相続は、相続される遺産を残した者が死亡の直前に国籍を有していた国の法令に従って確定される」、また、「不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される。」とされています。
このことから、ベトナム在住日本人が亡くなった場合には、ベトナム所在の不動産を除く財産についての相続は、ベトナム法ではなく日本法が適用されることになります。
そうすると、相続放棄の手続は日本で行えば問題ないということですか?
家事事件手続法3条の11第1項によると「相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき」でなければ、日本の家庭裁判所が管轄を有しないことになります。従って、ベトナム国内に住所を有する日本人が死亡した場合には、日本の家庭裁判所の管轄が認められないことになります。
それでは日本の家庭裁判所において相続放棄の手続ができないということですか?
その可能性があります。
それではベトナムの裁判所で相続放棄の手続ができるのですか?
ベトナム民法第615条1項によれば、「他の合意がある場合を除き、相続人は、死亡した者の残した財産の範囲内で財産的義務を履行する責任を負う」とされています。このことから、日本と異なりベトナムでは相続人は債務を相続するという仕組みになっておらず、そのため、相続放棄という制度自体が存在しません。
そうすると、債務超過の被相続人から債務を受け継ぐ可能性がある相続人が日本において相続放棄をできずに債権者から債務を請求される可能性があるということですか?
はい、その可能性があります。
それはあまりにもひどいですが、何か解決法はないのですか?
日本の家庭裁判所に相続放棄申述を申し立てる際に法的意見書を提出するなどして、日本の家庭裁判所で手続を進められるようにするという方法があり得ます。
具体的にはどのような意見書を提出するのですか?
事案に応じて主張等をする内容は異なりますが、家事事件手続法3条の11第1項において住所不明である場合に日本の家庭糧裁判所での手続が認められるため、その点を記載し、また日本の家庭糧裁判所で相続放棄申述の手続ができないことの不都合性が大きいことなどを記載することが考えられます。
実際に認められることがあるのですか?
同様の事例で意見書を提出することで日本の家庭裁判所での相続放棄の申述が認められたことがあります。
そうすると、事案に応じてしっかりと検討する必要がありそうですね。
その通りです。
ありがとうございました。
ベトナム明倫国際法律事務所
今回の執筆者
ホーチミン事務所代表弁護士
盛 一也(もり かずや)
k-mori@meilin-law.jp
・京都大学総合人間学部 卒業、中央大学法科大学院 卒業、2015年12月弁護士登録、2016年1月税理士法人山田&パートナーズ入所、2018年11月弁護士法人Y&P法律事務所転籍、2020年1月明倫国際法律事務所入所。座右の銘は、兵は神速を尊ぶであり、常に迅速な役務提供を実践。専門分野は、国際関係取引/スタートアップ法務/各種契約書・規定整備/人事労務対応/商標等知的財産戦略。使用言語は、日本語、英語。趣味は筋トレとサウナ。
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