Jリーグがアジア(特に東南アジア)での市場開拓、事業展開を視野に入れ、その必要性、将来性を唱え始めたことに、いち早く呼応したのがセレッソ大阪だった。
2012年1月にリーグがアジア戦略室を設置、翌月にタイプレミアリーグ(現タイ・リーグ1)とパートナーシップ契約を締結したのを追うように、同年3月、タイのバンコクグラスFC(2019年からBGパトゥム・ユナイテッドFC、以下BG)と提携協定を結んだ。
提携を持ち掛けたのはBGであり、選手育成を中心とした交流事業を望んだ。セレッソは株主でもありトップパートナーであるヤンマーと協議の上、手を携えてアジア事業に乗り出すことになる。最初から形が描けていたわけではないが、農業機械を製造・販売するヤンマーにとってアジアは重要な市場ゆえ、サッカーを通じたマーケティング事業に前向きだった。
セレッソはタイでトレーニングキャンプを実施、現地での試合に出場、アカデミーコーチの派遣、サッカークリニックの開設を進めた。こうしたタイでの活動を象徴し、セレッソらしさ、ヤンマーらしさが表現されている事例がある。
ヤンマーの現地法人とタイの農業・協同組合銀行(BAAC)、BGの共同事業として、BGのアカデミーの選手選考会をタイ各地(最終選考はバンコク)で開き、そこにセレッソのアカデミー指導者が選考に携わってきた。もちろん、これはタイ全土でのヤンマーとセレッソの認知度向上、ブランディングを目指すものだ。
2016年には両クラブが共同でタイの選手を育成するヤマオカ・ハナサカ・アカデミー(YHA)を設立し、練習場と選手寮を整備した。ヤンマーの創設者である山岡孫吉が私財を投じて設立した山岡育英会からの奨学金で中学2年から高校3年までの選手がサッカーと学業に励んできた。
しかし、コロナの影響でYHAの寮が閉鎖され、活動が滞っているため、現在、今後のあり方をヤンマーと両クラブが協議中だ。BGは育成年代の選手をセレッソで学ばせたいと考え、セレッソは選手の育成以外にもBGのコーチを育成していくことなど育成全般のサポートをしていくこと望んでいる。
10年にわたってアジア事業を推進してきたセレッソの猪原尚登事業部長はこう話す。「タイでの認知度アップにはチャナティップ(川崎F)のようなタイ代表の中心選手を獲得するのが有効だろうが、セレッソは選手育成を大事にしているクラブ。BGの選手をタイ代表に育てることでクラブの価値を上げることが理想と考えている」(後編に続く)
(取材・文 吉田誠一)