本記事は、ベトナムやベトナム人に起こる出来事を多彩に切り取り、解説するコーナーです。
日本で少子高齢化問題が指摘されて約30年が経つ。1989年に合計特殊出生率(女性が生涯で産む子どもの数)1.57が発表されて注目されるようになったが、1975年から減少傾向に転じ、かれこれ40年間以上、子どもが減り続けている。そして2019年の合計特殊出生率は1.36で、コロナ禍の婚姻率の低下から更なる悪化が見込まれている。また2020年の高齢化比率(全人口に占める65歳以上の割合)も28.7%で世界最高を更新中である。
改善どころかさらに悪化する現状に、政府は何十年も少子化を黙殺していたのか?と思われるかもしれないが、無策だったわけではない。『働き方改革』『子ども手当て』『一億総活躍』『地方創生』などを少子化対策で打ち出してきた。しかし結果は「女性が働きやすい社会ほど出生率が高い」「仕事と子育て両立できる環境にすれば少子化は防げる」といった言説の欺瞞に満ちた愚策だった。
一方、現在ベトナムは平均年齢31歳で人口ボーナス期。15~65歳の人口が65%を占め、25~29歳の層が最も多い。働く世代の高比率が、経済成長の土台となり、海外からの投資とともに消費が活発化する成長の只中にある。また税収の増加が、教育、医療、年金等の社会福祉の負担率を下げて財政に余裕が生まれ、社会インフラの整備等の公共事業の活性化も期待できる。ただし人口ボーナス期を経た20~30年後には必ず高齢化社会が訪れる。すでに少子化に転じたベトナムも2040年頃から急速に高齢化に向かう。ベトナム政府も現在の成長期の特徴である労働集約型産業に重点が置かれた状態からの転換を強いられるだろう。
ベトナムのみならず、今後多くのアジア諸国が日本と同じ人口の軌跡をたどる。それゆえ各国が日本の少子化対策の動向に注目しているに違いないが、未だ有効な対策を打ち出せてはいない。
日本の少子化で見えたのは、生活水準を落とす不安があっては結婚も出産もしようとせず、貧しい中で子どもを育てるリスクを回避する思考が想像以上に強いこと。前政権が不妊治療の保険適用を打ち出したが、既婚者への対策ではなく、若年層全体への大胆な対策が必要だろう。例えば結婚支援や子育て給付、奨学金の返済軽減、第二子以降の大学授業料無償化など、結婚後の生活不安を払拭する大胆な政策が求められる。
少子化は国から活力を奪い、経済は低迷し、将来的に様々な問題を生む要因となる。そして待ったなし問題を抱えた現在、多くの国民が改善意識を持てるか否かが問われている。
※本コラムは、筆者の個人的見解を示すものであり、週刊ベッターの公式見解を反映しているものではありません。