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【ベトナムのシン層 | Vol.17】多様性の理解が共存を創る

本記事は、ベトナムやベトナム人に起こる出来事を多彩に切り取り、解説するコーナーです。

日本のパスポートでビザなし渡航可能国は192カ国で4年連続で堂々第1位に鎮座する(2022年1月現在)。しかしそんな優位性とは裏腹に、日本国民のパスポート保有率は先進国最下位の21.8%。少子高齢化も一因と思われるが、パスポート所持者が約5人に1人とはあまりにも少なく、昨今の日本の実体経済の低迷とともに、将来への危機感を感じてしまう。

一方ベトナムはビザなし渡航可能国が54カ国で89位、国民のパスポート保有率は不明だが、若年層が多いことや中間所得者層の増加を思えば、今後より海外渡航が身近になるのが予想される。新興国の優秀な若者は、自国の発展に乗じて自らもチャンスをつかもうとする意識が高い。異国の価値観に触れることは、自国との比較対象が生まれ、異なる視点を育み新たな発想を生む。とりわけベトナムのような新興国の若者の海外経験は将来的に自国の発展に寄与する要因にもなるだろう。

しかしこのたびのコロナ禍で社会は大きく変わった。予期せぬ出来事で日常が崩れてしまう現実を目の当たりにした。これまでは物事には正解があって、それに応えられれば優秀とされたが、世界中が共有できる正解などなく、あるのは個々の解釈にすぎない。環境が違えば、見識が異なる。自分の中の常識が簡単にくつがえるという意味では、異国で初めて知る経験とも似ている。

国際紛争では民族も宗教も違う人たちが「自分の考えは正しい」と言い争い、国内ニュースでも在日外国人関連のトラブルを目にする。大切なのは、相手の主張に耳を傾け、自分の主張を示し、調停し、共存を探る。一つの正解ではなく、多様性を理解し合うこと。そして多様な見方は、他人の意見を鵜呑みにしないことでもある。たとえ目上の人の意見であっても、ある時代の限られた場所でしか通用しない見解だったりする。だからそれをすぐに信じるのではなく、自分の頭で考え、ハートで感じ、自主的に判断するしかない。もちろんそれには幅広い知識が求められる。その積み重ねの一つとして、異なる文化や価値に積極的に触れることが大いに役立つだろう。

以前のように海外との行き来が再び活況を呈するのはちょっと先かも知れない。それでも異国での経験が国際感覚を磨く見識となることには変わりない。そして多くの経験が人生を豊かにするのだとしたら、世界最強のパスポートを持つ国民としてそれを生かさない手はないように思う。ともあれ、人生は生老病死、生者必滅なのだから悔いなき生き方を目指したいものだ。

執筆者:いちぎ ひでと
フリーランス編集者。東京在住。現在は東京と生まれ故郷の高知を行き来する生活をおくる。パンデミック以前まで定期的にベトナムに訪れ、本紙『週刊ベッター』の制作にも携わる。

※本コラムは、筆者の個人的見解を示すものであり、週刊ベッターの公式見解を反映しているものではありません。

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