プロフィール
本番30分前に行くと日本人は来るのが早いなって……
『吉本住みます芸人』としてベトナムに来て3年が経ちました。まずは3年間住んでみて気付いたベトナムの良いところ、悪いところを教えて下さい。
良いところは、いい意味でいい加減なところです。例えば仕事でミスが起きても何とかなるという点です。以前、ギターを弾くネタで音を拾うのにマイクスタンドが必要だったんですが、肝心のスタンドがちゃんと立たなくて……。仕方なくスタッフ1人が舞台に上がって、そばでマイクを持つ。完全に3人の舞台でした(笑)
お笑いトリオ状態(笑)ベトナム人はアクシデントが起きても何とかやりきる。適応能力が高い(笑)
苦手なところは?
段取りの悪さです。例えば朝リハに行って、開演まで5、6時間空いたので一旦帰って、その後出直しました。するとあるスタッフから「どんなネタやるの?」って聞かれて「朝リハしました」と言ったら「私は見てない」って。あれ、何のためのリハって話で……。そんな段取りの悪さは否めません。とはいっても最後はやりきるんですが……。
ベトナム人の芸人さんはその段取りの悪さを指摘しないのですか?
基本的にベトナムの芸人さんはリハなし。いつでもぶっつけ本番(笑)段取りの悪さで最強だったのは、行ったのにまだ舞台ができてない(笑)仕方なく舞台ができるのを眺めながらひたすら待ちました。今、何待ちみたいな……。
舞台待ち(笑)あと本番前にスタンバイしていたら「出番までまだ30分あるよ。日本人は来るの早いな~」って。いやいや、30分前は普通でしょうって……。ベトナム芸人は出番ギリギリにきて、そのまま本番やってすぐに帰ります。
大御所みたいですね。
日本だと完全にベテランです。一日5、6ステージこなしそう。とにかく、やり慣れている感が半端ない。
生活面で今でも慣れないことってありますか?
順番抜かしされるのは今でも慣れません。注意したらゴメンってなりますが、普通に抜かしますからね。日本人は並ぶのが当たり前だから、やられるとやっぱりイラっとします。
僕が一番慣れないのはマムトムソース(エビの発酵食品)。あの臭いはキツイ。いつか慣れると思っていたのですがダメですね。
ではベトナムに3年住んで気付いた日本の変なところなどありますか?
過剰サービス。例えば日本のコンビニで弁当を買うと「温めますか?」「箸は何膳ですか?」「ポイントカード作りますか?」とか、いろんなサービスがすごい。一方ベトナムは言わなければ箸もくれないことが多々あります。それでも僕はベトナムの方が好き。日本はうっとうしいと思っちゃいます。
飲み会もヘンですね。日本人はなかなか帰らない。帰っちゃいけない空気があるけど、ベトナム人はさっさと帰ります。めちゃくちゃ早い。
日本だと締めに時間かかるうえ、締めたはいいけど誰が先に席を立つかみたいな……。
日本人あるあるですね。開始時刻は正確だけど終わりのグダグダ感は否めませんね。
気の遣いすぎも直した方がいいでしょう。
そう、もっと自己主張を大事にした方がいいと思います。
ま、こんなこと言ってますが、もしベトナムに先輩がやってきて飲み会があったら、ぼくは絶対帰らないっす(笑)
気を遣いまくり(笑)にいさんが帰るまでは帰りません。
自分がベトナム人化していると思うことはありますか?
グラブバイクをよく使うのですが、後ろシートで自分が手信号している時に思います(笑)
安全確保上いいことですね。
はい、やっぱ安全第一ですからね(笑)
僕はベトナム珈琲の『カフェ・スァ・ダー』がないと生きていけません。ベトナム人化とは違うかもしれませんが、気が長くなったというか、細かいことが気にならなくなりました。
いちいち怒ってると疲そうですしね。
時間にルーズなのも気にならなくなりました。全然待てます。20、30分とか平気です。
僕も細かいことが気にならなくなりました。僕らのネタで映像を流すのがあるのですが、ベトナム人スタッフが映像出しのタイミングを忘れてうまく出せなかったりするんですよね。本来はそこでドーンと笑いを取るところですが、それもあまり
気にならなくなりました。
気にならなくなりました。
そこらへんはビシッと決めてほしいとこですよね。
その点、日本はやっぱり凄いと思います。映像さん、音声さん、全部バッチリのタイミングでピシッと来ます。こっちではそれがなかなか難しい。
細かいところを気にしないおおらかさは良いのですが、そのぶん精密さを欠く。どっちがいいんでしょうかね?
ショーに限れば、そりゃ断然日本の方がいいです。
お金をもらっている以上はホントはちゃんとしたいです。
若者が使うベトナム語をいうとめっちゃウケます
ところで、ベトナムのお笑い芸人ってどんな感じですか?
日本のようなコンビ漫才はないです。MCか喜劇役者。総じて「コメディアン」って呼ばれていますね。
基本的にピン芸人ってことですか?
そうです。だから僕らが舞台に出ても、最初はお客さんから「一体何をするんだ?」みたいな見方をされます。
芸風も日本とはだいぶ違うんですか?
日本は団体芸というか、みんなで作るものが多いです。例えば『ダチョウ倶楽部』さんの「押すな、押すな」とか。ベトナムは個人主義なところがあるので、もしかしたらコンビや団体のお笑いが生まれにくい環境かもしれませんね。
笑いのツボの違いを感じることはありますか?
日本人は複雑に絡み合うネタが好きですね。フリがあって、ボケて、オトして、つっこんでみたいな。このスタイルはベトナムにはないです。ベトナムの笑いは『すべらない話』みたいな感じかな。
言葉をもじって韻を踏んだり。「うまいこと言うな~」みたいな、賢い人が面白いみたいなところは感じます。
おバカな動きとかはあまり好きじゃない。
変顔とかもないんですか?
役としての変顔はあります。ちょっと違うかもしれませんが、僕らのネタで悪戯で相方に口紅を塗るのがあって、それをテレビでやったのですが、それは汚すぎるからヤメてくれって。
女形の僕が綺麗に塗っているのはOKなんですけど。これは不思議でした。特に放送禁止的な要素もないと思うんですけどね。
相手が気づかない間に口紅をぐちゃぐちゃに塗るという侮辱的な要素が好きじゃないみたいです。ただし劇場はOKで、テレビだと規制が強いのかも知れません。
コントはちゃんとその格好じゃないとダメですね。
例えば、医者役には白衣。医者の格好をしていない限りシンスケはシンスケなんです。そこをお客さんの想像に委ねることはできないですね。
ちゃんと診察室セットがあって白衣を着て聴診器を首にかけて、ズラ被ってみたいじゃないと医者役としては見てもらえないっていうのはあります。
シンスケが女装して、僕が男役のカップルネタがあるのですが、そのネタを終えたあとに司会者が観客に感想を尋ねたことがありました。その答えが、現在LGBTに関する話題が多いせいか、社会を風刺したネタで面白かったって……。
僕をガチのゲイだと勘違いしちゃったみたい(笑)社会的メッセージ性の強いネタになっちゃいました。
日頃からベトナム人にウケるネタを作るために何かされていますか?
若者言葉を教えてもらっています。流行り言葉をいうのはやっぱりウケます。普段、僕らが勉強しているベトナム語は固い表現だと思うんです。日本でも「マジ卍」とか「きもい」みたいなことを外国人が喋ると面白い。それと同じですね。
では素人でもこれを言えばベトナム人にウケるワードを教えて下さい。
僕のオススメは「サォ・バー・コー(Xạo Bà Cố)」。これは結構ウケます。誰かの意見に対して「嘘つけ~」みたいな意味の若者言葉です。でも一つ問題があって発音がめっちゃ難しい。ちなみに僕は一発で通じたことがない。でも大丈夫。二発目でもウケますから。
いいですね。他にはありますか?
「クイッ・スー・ハー(Quỷ Sứ Hà)」かな。「小悪魔ね~」みたいな意味ですが、おかまちゃんの「やめてよ~」っていうニュアンスです。ただしこれも発音が難しい。一番使いやすいのは「コンサイ・コンベェ(Không Say Không Về)」ですかね。
どういう意味ですか?
飲みの場で使うんですが「酔わないと帰れないぞ」って意味で、飲まないと帰さないってニュアンスが含まれます。ウケるかどうかはわかりませんが、場を盛り上げるとは思います。
モッ、ハイ、バー、ヨーの乾杯が始まると思います(笑)
では最後にこの3年で芸人として成長したと思うことを教えてください。
芸人としてはめちゃくちゃ退化したと思います(笑)
確かに日本の芸を軸に考えたらそうかも。
エンターテイナーとしては進化しましたが、日本の漫才をベースに考えたら地に着いたくらい下がったと思います(笑)
ただ何があっても動じなくなったと思います。無茶な現場でも何とかなるみたいな(笑)
漫才やコントというよりもショーとしてお客さんと絡んだりとかに関してはうまく立ち回れるようになったと思います。
今後のさらなるご活躍を期待しております。ありがとうございました。
東南アジア各国へ渡った「住みますアジア芸人」の1組として2015年7月からベトナムホーチミンに移住。
(トップ写真 左)中川 新介(なかがわ しんすけ)36歳 生年月日1982年6月25日 熊本市出身
(トップ写真 右)井手 一博(いで かずひろ)35歳 生年月日:1983年2月6日 熊本市出身