書評コラム「今週の1冊」

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スティーヴン・ホーキング、レナード・ムロディナウ『ホーキング、宇宙と人間を語る』佐藤勝彦訳(エクスナレッジ、2011年)

宇宙はいかにして創生されたのだろうか。 アインシュタインが1915年に「一般相対性理論」を定式化したとき、宇宙を膨張や収縮をしない「静的」なものと捉えていた。だが、1929年に物理学者ハッブルは、宇宙が膨張している観測結果を発表。1947年には、ジョージ・ガモフによって「ビッグバン説」が提唱された。 宇宙は膨張しており、その膨張を過去に遡っていくと、一点に集中している。さらに、宇宙は一様ではなく密度の違う「ゆらぎ」があることも実証され、宇宙の年齢は137億年と明らかになった。それと同時に、光やX線も出さないダークマター(暗黒物質)やダークエナジー(暗黒エネルギー)があることも判明した。 ここでの大きな問題は、ビッグバンが起こる以前、宇宙はいかなる状態であったのか。宇宙が「無」であったならば、宇宙誕生の瞬間に膨大なエネルギーと物質が突然湧き出たことになる。無から一瞬で形を成すなど現実には起こりえない人智を超えた現象である。聖書の『創世記』で「神は光あれ」と記されているように、宇宙の誕生は「神の手」によるものなのか。 ところが、ホーキングは神の介入を否定し、宇宙は無からでも生成され
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『人はなぜ不倫をするのか』(亀山早苗、SB新書)

今月初旬、『2016 ユーキャン新語・流行語大賞』が発表された。見事大賞を受賞したのは、「神ってる」―。広島カープの鈴木誠也選手の活躍をみて、思わず緒方監督が口にした言葉だ。惜しくも大賞を逃したものの、「ゲス不倫」も候補に挙げられていた新語だ。1年中、誰かの「ゲス不倫」ニュースが流れていたような気さえする2016年。今年の8月に発売されたタイムリーな本書は、「人はなぜ不倫をするのか」をテーマに8人の専門家たちが、不倫を徹底的に解明しようという試みだ。 行動遺伝学、動物行動学、昆虫学、ジェンダー、宗教、性科学、心理学、脳の8つの分野の専門家たちは、それぞれの研究分野から恋や不倫を分析。世間であれほどバッシングを受ける不倫だが、結局、専門家の誰ひとりとして不倫を否定していない。「制度がヒトの体に合っていない」とわかりやすく説明してくれたある専門家の言葉が、いちばんスーっと入ってきたが、つまりは(当たり前のことだが)相手の心や身体の自由を奪うことはできないということ。 それにしても、なぜこれほどまでに日本では、不倫=絶対的悪だとバッシングにつながるのか。結婚も不倫も考え方はひとそ
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上野千鶴子 小倉千加子『ザ・フェミニズム』(ちくま文庫)

「しょせん女性が活躍するなんて無理、もう十分活躍しているじゃない」なんて声が周囲からちらほら聞こえてきた。一応「女性」にカテゴライズされる私はどうやって答えよう? この人たちに学ぶしかないか、と読み返したのがこの本だ。社会学者の上野千鶴子と心理学者の小倉千加子、2人のフェミニストが徹底的にフェミニズムについて語り合った対談記録だ。「もっとも売れそうもないタイトル」とあとがきで上野が吐露しているように、この本が発刊された2002年頃は「フェミニズム」はめざわりな女性の代名詞だったといえる。わざわざ理論をかきたてて主張をする女というイメージだろう。波風をたてるのを嫌うこの国ではとくに嫌われたに違いない。 それから15年近くたったいま、はたして2人のフェミニストの本音は耳障りだろうか。少子化は一層進む、資本主義が女性に門を開けて女女格差(総合職・企業戦士の妻・パート)を広げた、子持ちの女性に働いてもらうための労働政策として保育所政策と103万円の壁がなくなる、あまりにも現実味がありすぎ、数年前の発言と思えるだろうか。 困ったときは歴史を振り返れ、そう教わった教訓がここにも生きた。
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菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書・2016年)

今年の話題作は『日本会議の研究』で決まりでしょう。 「日本会議」とは、民間の保守団体で「全国に草の根ネットワークを持つ国民運動団体」である。「日本会議」には多くの宗教団体や政財界の人々が加盟し、日本の各地に支部を作っている。 「日本会議」は、「誇りある国づくり」のために「元号法・国旗国歌法の制定運動」「教育基本法の改正運動」「自衛隊海外派遣法支援活動」「憲法改正運動」などを行ってきた。 「日本会議」に群れる保守派たちは、GHQの押しつけ憲法に苛立ち、「日本の主権回復」という大義に酔いしれる。戦後レジームからの脱却を目指す安倍政権と相まって、改憲勢力の一翼を担う「日本会議」に大きな注目が集まった。 「日本会議」が実施してきた活動は、地道で民主的なものだ。しかし、彼らが目指している日本の姿は、私たちを幸せにするのだろうか。著者の菅野氏が述べるように、「民主的な市民運動が日本の民主主義を殺す」という言葉が印象に残る。「情念」に駆られた政治運動は、えたいの知れない「空気」に流され、盲目的になってしまう。ここに日本の危機の本質がある。 もちろん、『日本会議の研究』の記述に関して、細かな
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『ペルセポリスから飛鳥へ』(松本清張、日本放送出版協会)

「奈良の都にペルシャから来た役人がいた」というニュースが飛び込んできた。調査をした奈良文化財研究所によると、平城京跡から発掘された木簡に、ペルシャを表す「破斯(はし)」という名前の役人の名前が確認されたのだという。 木簡自体は1966年に発掘されたが、赤外線による解読に成功したのは今年の8月。ペルシャといえば、今のイランだ。事実は小説よりも奇なり。だが、その事実を鋭い洞察力で指摘していた人がいる。昭和の大作家、松本清張だ。清張は、まだ日本人が海外旅行に出かけることすら珍しかった1970年代にイランを度々訪問。現地で遺跡の発掘調査にあたるとともに、日本の飛鳥地方とペルセポリス(ペルシャの帝都)の関係性を研究していた。 本書で、清張はこう語っている。「(・・・)わたしが言いたいのは、「物」だけが輸入されたのではなく、交易品としてそれを運んできた「人」とがいっしょに海外から畿内に来たということなのである。 (・・・)7世紀には、深目高鼻多髯という毛色の変わった中央アジア渡来のイラン人が飛鳥地方にかなり居住していたと推測していい」。人が来れば、当然彼らの宗教も伝わるわけで、清
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私も「移動する子ども」だった 川上郁雄

「オレの名前は Vu Ha Viet Nhat Hoai Nam パパとママと越南と日本とマイホーム 中学入学で名を翔と書く ベトナム人が嫌で為りきったジャパニーズ 日本名にこの顔 誰も分かりやしない 只 素性がばれるのが嫌で嫌でたまらない(…) 日本人ラッパー真似して 俺もなったラッパー ある日気づいた名前もラップも真似ばっか 逃げ回ってばかり ベトナムを隠し(…)オレが何人だろと一体構わない 流れてる血は日本より西のものだから だからオレはオレの事をオレの歌で証明(…)オレは向かい風を歩くベトナム少年 知らなかったぜマイライフ 始まりはボートピープル…」 素性を隠し続けたものの、自分のルーツを知った一人の人間としての誇りが感じられるこの歌を作ったのは、神戸で生まれ育ったベトナム人ラッパー、NAMさんだ。 子どものころから「ベトナム人難民」と特別視されるのが嫌だったという彼は中学になると日本名(通名)を使い始めた。 そんな彼を変えたのがラップとの出合い。無期停学を言い渡された高校一年のころのことだ。先輩に「何でもええから歌え、即興や。」といわれ、心の奥に