『上野アンダーグラウンド (駒草出版株式会社 ダンク出版事業部)』本橋信宏 

佐野敦子(さのあつこ)。博士(社会デザイン学)。社会デザイン学会理事、同学会内音楽と社会デザイン研究会代表。移民・女性問題・教育・脱原発などドイツ・欧州の幅広いテーマを扱う一方、ドイツ国内の調査・公演のコーディネート、日独比較を展開。これまでドイツに3回長期滞在。週末はアマチュアバイオリニスト。

パンダ、西郷像、西洋美術館、アメ横。上野と聞いて思い浮かぶイメージはさまざまだ。この本の言葉を借りれば、土地の記憶ゆえかもしれない。台地をえぐり上野に流れ着く複数の川の記憶。明治時代には鉄道の終着駅となり、いまも水の流れにのるように人々がやってくる、なにかに惹きつけられるように。
だが川が流れ込めば、底に渦ができる。人が流れ込む上野は、欲望がうずまく地でもある。宝石街、パチンコ、性風俗、貧困。この書は上野のディープさをあらわすそんな「アンダーグラウンド」なキーワードから、上野のいまをあらわにする。駅のそばにそんな一角がと思うと、裏道にパラレルワールドをみつけたようでどきどきもする。
だが、上野は多くの老若男女や飲食店が集う観光地。危険なのはほんの一角にすぎない。そして再開発の名のもとに、そんな場所も減っている。子どもの頃は近寄るなといわれたエリアに、いまでは近代的なビルや文化施設がたちならぶ。餓死者や貧困にあえぐ人があふれた区域に、流行の服に身を包んだ人々が行き交う。
桜の季節、かつては社会鍋や傷痍(しょうい)軍人が目立った上野の山に、春を愛でる多くの外国人が集う。時代とともに変化する社会を映しだしてきた上野。この書を読むと、この地はこの世のうつろいやすさも記憶として刻みこんでいるのがわかる。だが同時に、桜の下であざ笑っているかのようにもみえるだろう。過去を顧みない人間の愚かさを。

 

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