【熱狂半島】落合賢氏/ベトナム映画『パパと娘の7日間』の日本人監督

フィジカルな笑いが好き、ベースはドリフの『カトちゃんケンちゃん』

一般人が困難を乗る越える物語が好きです

ベッター編集部
今までいろんな作品を撮られていますが、監督ご自身が好きなストーリーはありますか?
落合監督
スピルバーグ監督が大好きなんですが、彼の作品は一般人が特別な状況に置かれることがストーリーの根幹になってることが多い。『ジュラシックパーク』や『E.T.』もそうですよね。一方、真逆は『スーパーマン』。こっちは特別な人が一般人になることがテーマです。もちろんこれも一つの物語として成立します。しかし個人的には一般人が困難な状況を乗り越える話の方が好きですね。
ベッター編集部
それは今作の『パパと娘の7日間』にも通じるものがあるのでしょうか?
落合監督
はい。『パパと娘の7日間』も一般人が特別な状況に置かれて、それを乗り越えるという話なので、ぼくにとってはド真ん中テーマです。
ベッター編集部
性別が入れ替わるという物語設定は、シンプルゆえに映像イメージも浮かびやすいのではと思います。しかしその反面、国によって喜怒哀楽の表現は様々です。そこらへんがポイントになると思われますが、いかかでしょうか?
落合監督
そこが一番難しかったところです。ベトナム人の観客に合わせた笑いを追求することが重要なテーマでもありました。
ベッター編集部
父娘が入れ替わるテーマは、どう捉えられていたのですか?
落合監督
父娘入れ替わりは、センシティブなトピックです。アメリカでは通用しない内容だと思います。女同士の入れ替わりは問題ありませんが、男女だと近親相関のイメージに転化してアメリカでは厳しい気がします。

その点アジアは父娘が入れ替わってもイヤらしい発想に繋がることはあまりない。そうでないと映画作品にはできないですからね。実際に共産国家のベトナムでは検閲があります。脚本等の提出ルールもあり、許可が下りなかったら上映できません。

ベッター編集部
制約がある中での製作はいかがでしたか?
落合監督
プロデューサーのチャーリー・グエンさんにいろいろ助けて頂きました。チャーリーさんは近代ベトナム映画の先駆者で、彼が作り上げたエンタメ作品は、ベトナム歴代人気映画のトップ10の中に5本くらい入るようなすごい業績を残されている方です。ぼくは尊敬の念を込めてチャーリー先生って呼んでいるのですが、どうすればベトナム人にウケる脚本になるのかということに関していろんなポイントを教えてくれました。

脚本自体は大学の同期のベトナム人と二人で書いたのですが、それをチャーリーさんに見てもらいながら3人でどうすれば面白くなるのか話し合いました。あとは父親役でベトナム人喜劇俳優のタイ・ホアさんからもいろんなアイデアを出して頂き、それを取り入れながら撮影しました。

ベッター編集部
日本とは異なる笑いの表現方法もあったのですか?
落合監督
一番異なるのは、演技というよりも言葉遊び的な部分です。言葉遊びは国ごとに違います。コメディーはどうしても言葉遊びが大切です。あとぼくが作るコメディーは、基本的にフィジカルな笑いが中心です。フィジカルな笑いは万国共通みたいなところがあると思います。
ベッター編集部
フィジカルな笑いとはどういったものなのでしょうか?
落合監督
ドリフの笑いです。子供の頃に見た『カトちゃんけんちゃん』のコントの笑いがぼくのベースになっているのかも知れません。ビートたけしのお笑いもそうですが、身体を張ったコントの笑いが好きというか……もしかしたらぼくの人格形成にも大きく影響しているかも知れません(笑)

原作に必要なのは国や言語を越えるメッセージ

ベッター編集部
落合監督がこの先、目指して行きたい方向などありますか?
落合監督
日本の原作やコンテンツを世界に送り出すということにも注力したいと思っています。また、その逆のベトナムやアメリカ原作の作品を日本に紹介することもやりたいです。監督だと運が良くて一年に一作品撮れるか否か、通常は二、三年に1本というのが実情です。しかしプロデューサーとしてコンテンツを紹介していくのであれば、一年に2本できたりもすると思います。もっともっと多くの作品に関わっていきたいですね。
ベッター編集部
現在ベトナムは若者人口が多いこともあり、今後エンタメ界における映画への期待値が高まると思われます。一方日本は少子高齢化問題を抱えて、今後映画産業も含めていろんなものが下降する気がするのですが、そのへんはいかがでしょうか?
落合監督
日本の映画業界は飽和状態で、これ以上伸びる状況ではないことが考えられます。人口減少と同様に映画業界も縮小するでしょう。これは日本映画がいいか悪いではなくて必然的なものです。

逆に現在のベトナムは日本の80年代のような勢いが感じられます。今後どんどん人口が増え、映画産業も大きく発展する時期を迎えているのではないでしょうか。その点では大きなチャンスが転がっている時代だと思います。ベトナム語も喋れないぼくみたいな外国人でも監督をさせて頂けるわけですから。日本じゃ絶対にないことだと思います。それはベトナムの映画産業自体が若いという証拠でもあり、まだコンテンツが足りていない状態だとも思います。ベトナムに限らず、そういう新興国に飛び込んでいって作品を作ることは楽しいですし、機会があればどんどん挑戦していきたいです。

ベッター編集部
この先、こんな映画を作ってみたいとかありますか?
落合監督
ジャンルにこだわらないので具体的にどうっていう作品はないです。ただし一つ根底的なテーマがあります。ぼくは日本で生まれ育ち、20代をアメリカ、30代の今はベトナムをはじめいろんな国を行き来しています。根無し草みたいなものです。だからこそ最終的に自分が帰るところはどこか『ファインディング・ホーム』という考え方ですが『自分の居場所探し』というものをテーマに据えたいと思っています。居場所といっても特定の場所ではなくて、人だったり、自分の心の中だったりします。そういう意味では幅広いテーマだと思います。
ベッター編集部
では最後に、今作の『パパと娘の7日間』のここを見てというポイントを教えて下さい。
落合監督
日本のTVドラマとの違いを見て欲しいです。もう一つは、人が入れ替わる物語は、親は厳格で子どもは暴れん坊といったのがパターンで、それが入れ替わるから面白いというのがあると思います。しかし、ぼくは逆にしました。親の方が子どもっぽくて、子どもはしっかりしている設定です。そうすると、入れ替わることで元に戻ることになるのですが、これがある意味、現代の親子関係を反映していると思っています。親は携帯でゲームしていて、子どもは一生懸命勉強している光景をベトナムで何度も見かけました。だからこそ逆パターンにしたいと思いましたし、ベトナム人の観客に面白がってもらえると期待しています。もちろん日本人も楽しめる内容だと思うのでぜひ劇場で観て笑って楽しんでもらいたいです。
ベッター編集部
落合監督、インタビューありがとうございました!

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